デート de shit(後編/ヤムチャ目線)
菫色のスーツに身を包み、メイクは普段よりもやや濃い目、肩まである髪をエアリーに結い上げて、颯爽とブルマがこちらへ歩いてくるのが見えた。
ははあ、仕事の帰りだな。
俺はブルマに手を振りかけて、瞬間動きを止めた。
…悟空?
見間違えようのない逆毛頭が隣にいた。
何で悟空がいるんだよ。今日は俺とのデートじゃなかったのか?
しかもあろうことか、あいつらは…

手を繋いでいるではないか!!

俺は眩暈に襲われた。異常だ。絶対にこいつら異常だ。これで何もないなんておかしすぎる。誰が見たって恋人同士じゃないか!!
ブルマは悟空から手を離すと、何事もなかったかのように俺のところへやってきた。
「ヤムチャ、待った?」
「おっす!」
おっす、じゃねーーー!!
「何で悟空がいるんだ?」
俺は訊いた。当然だろう?
それに対するブルマの答えはこうだった。
「ちょっと仕事を手伝ってもらったの。それで呼んだのよ」
「悪りぃな、デートの邪魔しちまって」
そう思ってるんなら来るな!!
俺の苛立ちなど気づきもせず、ブルマは悟空に笑ってみせた。
「今日は個室だからマナーも気にしなくていいわよ」
おまえ!最初っからそのつもりだったのか!?

…くそ、俺は一生悟空に勝てないのか。この世は早い者勝ちなのか?

会食は和やかに進んだ。…俺を除いては。
相変わらずマナーのなっていない悟空に、ブルマは思い出したように訊ねた。
「それでどう?ちゃんとやれた?」
「ああ。オラ初めてだったからよくわかんなかったけど、やれば何とかなるもんだな」
「要は場数と経験よ」
おまえら、何の話をしてるんだ。
「何って、孫くんがチチさんとフレンチ食べに行った話よ」
ああ、そうですか。
俺が不快と疎外感に堪えていると、悟空が言った。
「オラいっつもチチが作ってくれる横で食ってたけど、2人で食うのもいいもんだな」
そう思うんなら出てけ!!
「あんたも言うようになったわねえ」
ブルマが微笑ましそうに言った。

会食は和やかに終わった。…俺を除いては。
「今日はごっそさん。じゃあな、ブルマ」
「バイバイ」
ああ、帰れ帰れ。
悟空が空の彼方へ消え去ると、ようやくブルマは手を振るのをやめた。俺はブルマの後について歩き出した。
「あらヤムチャ、あんたうちに来るの?」
「行っちゃ悪いか」
俺は心の底から不貞腐れた声を出した。しかしブルマは気にするでもなく、不思議そうな顔をして俺を覗き込んだ。
「そんなこと言ってないでしょ。何怒ってんのよ」
「自分の胸に聞いてみろ」
我ながらよく言ったもんだ。
ブルマは俺の台詞をしばらく咀嚼していたが、やがて得心したように言った。
「はっは〜ん。あんた焼いてんのね?」
そして一転、俺を責めだした。
「まったく。なんであんたはいつもいつも孫くんにヤキモチ焼くわけ?みっともないったらありゃしない!!」
「バッ、バカやろう!!ヤキモチじゃねえ!!おまえらが異常なんだ!!」
どうしてそれがわからないんだ。俺は捲くしたてた。
「あたしたちのどこが異常だっていうのよ」
「一緒に寝てただろうが!!」
「それくらい誰だってするでしょ」
しねえよ!!
こいつには何を言っても無駄だ。常識なんて通用しないんだ。
「いくら友人ったってなあ、限度ってもんがあるだろうが!!」
「それがヤキモチじゃなくて何なのよ」
「違う!おまえがおかしいんだ!!今日だってそうだ、俺とだって手なんか繋がないのに何で悟空と…」
俺の怒声をブルマが遮った。
「何よあんた、手繋ぎたいわけ?」
「そうじゃない!!」
「いい年して照れないでよね」
呆れたように呟くとブルマは俺の手を取って、C.Cの方角へと歩き始めた。
「まったく、素直じゃないんだから」
「……」




こうして、俺は丸め込まれた。
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