Small beer
「女の扱い方?」
訊き返すと同時に、ヤムチャは空になったビール缶を握り潰した。
「なんで俺に訊くんだ?クリリン」
あたらビールを引き寄せる。その手元に目を落としながら、クリリンは慎重に言葉を紡いだ。
「え、えぇと、だってヤムチャさん、ブルマさんと付き合ってるじゃないっすか…」
「女がいるってんなら悟空だってそうだろ」
歯切れの悪いクリリンの言葉に、ヤムチャは難なく反論してみせた。彼が手首を翻すと、開けたばかりのビールが勢いよく喉を滑り落ちていった。
意外にも他者を寄せ付けないヤムチャの精神に、クリリンの言葉もいよいよ混沌を増してきた。
「それはそうなんですけど…悟空はほら、もう結婚しちゃってるし、筋斗雲にも乗れるし、何の問題も起きなさそうっていうか…」
「いや、何言ってるか全然わからないんだけど」

ある夏の日。C.Cの外庭に、むさ苦しくも暑苦しい武道家ばかり数人が集まっていた。面々は、ここに住んでいるヤムチャ、ウーロン、プーアルに、悟空、クリリン、天津飯、餃子、亀仙人。ブルマとチチはショッピングに出かけていていない。
「ダメだって、クリリン。ヤムチャは鈍いんだからよ」
ウーロンが忍び笑いを洩らしながら、助けにならない舟を出した。
「はっきり言えよ、どうしてあのブルマと付き合っていけるのか不思議だって」
「いや、あの、そんな、おれは…まあそういうことなんですけど」
初めこそ取り繕っていたクリリンだったが、やがて両手をきっちりと膝の上におくと、意を決したように吐き出し始めた。
「言っちゃなんですけどブルマさんって、気が強くて、自分勝手で、わがままで、すぐ怒鳴るし、怒ると怖いし…そんなブルマさんと長く付き合えてるヤムチャさんって、すごいなあって思うんです!!」
「おまえなあ…」
事実ではあっても、他人に言われると不本意なことというものはある。ヤムチャとブルマはその典型であった。
「お願いです!コツのコツだけでいいから教えてください!」
クリリンの声には、もはや切実さすら漂っていた。
「コツって言われてもなあ」
呆れたように息を吐きながら、ヤムチャは頭を掻いた。

「だいたい俺、ブルマのこと扱いにくいとか思ってないし」
「ええ!!??」

クリリンはもちろんのこと、話に加わっていたウーロンのみならず、背を向けていたプーアルまでが、揃って頓狂な声をあげた。
本人にとってのみ思わぬ皆の反応に、ヤムチャは慌てたように付け加えた。
「あ、いや、最初の頃は思ってたよ、うん。でもあいつ、気が強いわりに突くとすぐ崩れるし、わがままったって無理難題ふっかけるわけじゃないし、口は悪いけど本当に人を傷つけるようなことは言わないし。自分勝手なとこはたしかにあるけど、女ってみんなそんなもんだろ?」
「……」
「まあ、扱いやすいとは言わないけど。慣れりゃ結構ワンパターンだよ。かわいいもんだ」
クリリンはあんぐりと口を開けたまま、ただただ無言で年上の弟弟子の顔を見つめた。
「ほっほっ、ヤムチャも大人になったのぉ」
ビールですっかり上機嫌になった亀仙人が茶々を入れる。
ウーロンが哀れむような口調で言った。
「おまえ、抱き込まれてるぞそれ…」
「そんなことないって」
その時、本来の主人公が口を挟んだ。

「いやー、オラわかるなぁ」
「ええ!!??」
「悟空が!!??」

クリリン、ウーロン、プーアル、亀仙人に天津飯。つまるところその場にいた全員――眠りこけている餃子を除いて――が、声を揃え顔を向けた。
「チチもよぉ、いっつも『働け』『働け』ってうるさいし、怒ってばっかりいるけどよ、『イザ』って時にはすっかりおとなしくなっちまってよ。やっぱ女だよな〜」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…悟空よ…大人になったのぉ…」
亀仙人の額に汗が光った。


「いや〜悟空もそういうことがわかるようになったか〜。兄ちゃんはうれしいぞ」
「おめえ、オラの兄ちゃんじゃねぇだろ」

後には、すっかり酔いの回ったヤムチャに絡まれて、迷惑そうな悟空がいた。
この2人が激しく明暗をわけることになるのは周知の通りである。
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