プチ不思議アドベンチャー
ブルマは心を決めた。
半日ほどをかけて身支度を整えると、緊張感漂わぬ表情で研究室に佇んでいる父に声をかけた。
「父さん、飛行機のカプセル貰うわね」
「それはかまわんけど、どこか行くのかね?」
「ドラゴンボールを探しに行くのよ」
16の夏。ハイティーンへの第二歩。恋に恋する少女は、夢を見る間を惜しんで、実力行使の道を選んだ。
「ドラゴンボール?何だね、それは?」
「これよ。うちの蔵にあったの」
黄金色に輝く球体に浮かぶ2つの星。それは人間の夢をかなえる、神の作りたもうた奇跡のアイテム。
「ほう、キレイなものだね」
「7つ揃えると龍が出てきて願いをかなえてくれるんだって」
「うちにそんなものがあったとは知らなかったなぁ」
「前に集めた人は王様になったらしいわ」
娘が怠りなく情報収集をしたらしいことを見てとると、父親は至極当然な質問をした。
「で、ブルマは何をお願いするのかね?」
「ナ・イ・ショ!」
(あたしの願いはただ1つ。ステキな恋人!これっきゃないわ!)
娘にカプセルを手渡しながら、科学の権威である博士はこともなげに言ってのけた。
「父さんにもピチピチギャルをもらってきておくれよ」
「『も』って何よ、『も』って!!」


チラリとドラゴンレーダーに目を落とし、それをウェストポーチにおさめると、ブルマはバイクに飛び乗った。高く結い上げた髪が風に流れる。
「それじゃ行ってくるわ」
「おや、飛行機で行くんじゃないのかね」
「少し街で買い物していくから」
テラスから、ティーポットを片手に母親が手を振っているのが見えた。
「ブルマさん、ママにもカワイイ男の子よろしくね〜」
「夫婦揃って同じことを言うなっ!!」
一喝してバイクをスタートさせてから、結局は自分も同じことを願っているということには露ほども気づかず、ブルマは心の中で毒づいた。
(まったく、この親からどうしてあたしみたいなカワイイ娘が生まれたのかしら。本ッ当に不思議ね!)


ドレス、靴、アクセサリー。買い込んだショッピングバッグからそれらを取り出し、それをつけて恋人と会う自分を想像する。
「『ステキな恋人』に会うんだもの、これっくらい当然よね」
まとめて1つのカプセルにおさめ、都外へとバイクを走らせる。やがて、家々もまばらな田園地帯へとさしかかった。
「ここらへんで飛行機に乗り換えよっと」
ポーチからカプセルケースを出し、中を検める。
「えぇと、父さんのくれた飛行機は…。これね、7番カプセル。…ホイッ!」
側面のスイッチを押し、勢いよく投げつけた…
BOOOOOOOM!!
空へ放られたカプセルから、バサバサと音をたてて、ブリーフ博士の愛読書が大量に飛び出した。呆然とするブルマの頭上に、次から次へと降り注ぐ。
「あ…あの…クソ親父……!」
地に落ちた雑誌を乱暴に踏みつけると、震える拳を握り締め、ブルマは力の限りに叫んだ。
「父さんのバカーーーッ!!」
バカーッ  カーッ  ァーッ…
声は山を越え谷を越え、虚しく空に木霊した。

こうしてブルマは陸路をとることとなった。
ブリーフ博士のいながらの活躍によって、ドラゴンボールの物語は生まれたのである。
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