蕩児たちの帰宅
周囲と一線を画すスケールの建物。森と見紛う取りまく緑。
「何してんの。早く入りなさいよ」
立ちつくす3人をブルマが促した。
「はぁぁ…」
「大きいですねぇ」
1人さっさと先を行くブルマの背中に、ウーロンが呟いた。
「どこのボンボンだあいつ…」

ドラゴンボール探しの旅を終えたヤムチャ、プーアル、ウーロンの一行は、西の都にあるブルマの家へとやってきたのだった。

ブルマが壁のコンソールを操作すると、シュッと微かな音をたてて、ほとんど巨人でも吸い込めそうな大きさのドアが口を開いた。
「おまえんち会社か何かやってんのか?」
無意味に広がるホールをキョロキョロと見回しながら、ウーロンが訊ねる。
「まぁね。カプセルコーポレーションって…知ってるわよね」
「C.C!?めちゃめちゃ有名な会社じゃないか!!げっ、おまえC.Cの娘だったのか!?」
「ほっほっほ、これからはお嬢様とお呼びなさい」
小指を立て愉快そうに笑うブルマを、メイドボットが出迎えた。
「オカエリナサイマセ ブルマサマ」
「ただいま、父さんたちいる?」
「ハカセタチハ ニワデアフタヌーンティヲタノシンデイラッシャイマス」
「のんきでいいわね」
こともなげに言うと、ブルマは外へ出る様子もなくさらに奥へと歩き出した。ヤムチャがおずおずとその横へ並びかけた。

「あ、あの〜、ブルマさん」
「ブルマでいいわよ」
「本当に君が、あのC.Cの娘なの?」
「何それ、どういう意味よ」
「だって…そんなお嬢様が何で…わざわざドラゴンボールなんか…」
ヤムチャの質問は、いたずらっぽい視線とからかうようなその声に遮られた。
「あら、行かないほうがよかった?」
「い、いや!そんなことは…」
「夏休みでヒマだったからよ」
ブルマはそう付け足したが、あまり答えにはなっていなかった。

「さ、こっちよ」
ホール脇のドアに向かう。怪訝な顔でウーロンが問うた。
「庭にいるんじゃなかったのか?」
「1階が庭なのよ」
「は?」
得心しないウーロンを無視して再びコンソールを叩くと、ブルマは小さく溜息をついた。
「本当はあまり会わせたくないんだけど…」
「え?」
意味を図り損ねたヤムチャが訊ねる間もなく、扉が開いた。
向こう端の見えない広大なドーム状の空間には、緑が茂り、色とりどりの花が咲き乱れ、あまつさえ小竜さえ飛んでいた。
「げげっ、何だこりゃ!」
「家の中に庭が…」
「ヤムチャさま、ボクたちとんでもないところにきてしまったんじゃ…」
常人、必驚の言葉を表す。
もはや驚きの表現を使い果たしてしまった彼らの前に、止めを刺すべく、肩に黒猫を1匹乗せた白衣の人物が現れた。
「あっ、父さん」
「おやブルマ、帰っとったのか。BFは見つかったかね?」
「うん、紹介するわ。こちらヤムチャ。で、こっちがウーロンとプーアルよ」
「なんじゃ、3人も貰ったのか。神龍とやらも太っ腹じゃのぉ。で、父さんが頼んだピチピチギャルはなしかね?」
「ないに決まってるでしょっ!!」
「冷たい娘じゃのぉ…」
「父さんが異常だわっ!!」
肩を怒らせ喚くブルマ。唐突に始まった父娘の独特すぎる会話に、言葉も出ないヤムチャたち。
何とも微妙なその空気を、陽気な声が引き裂いた。
「あら〜、ブルマさん、お帰りなさ〜い。お友達?ママにも紹介してほしいわ〜ん」
疳高い声の主は、とうもろこし色の髪をした、妙に若作りの女性であった。
「友達じゃなくてBFだそうだよ」
「あら素敵。ハーレムね〜。ママもお仲間にいれてほしいわ〜」
「わしも入れてくれるかね?」
「もちろんよ〜」
ブルマのママは器用に体をくねらせながら、品定めするように3人に声をかけた。
「こちらヤムチャちゃん?んまぁハンサムね〜」
「プーアルちゃんもかわいいわ〜」
「ウーロンちゃんはファニーフェイスね♪」
「…………」
C.C家人以外の面々は完全に固まっている。
「もういいからあっちいって!」
堪えかねたブルマが、はじかれたように両親を押し出した。
「んもうブルマさんてばイジワルなんだから〜。ヤムチャちゃん、プーアルちゃん、ウーロンちゃん、後でゆっくり遊びましょうね」
「遊ばんでいいっ!!」
「ママ…わしは…?」

両親は庭に設えられたテーブルへと戻された。沈黙が辺りを支配した。
「あ…ああ…あれが両親…!?」
引きつった笑いを顔に貼り付け、窺うようにヤムチャがブルマの顔を見る。
「…だから会わせたくなかったのよ…」
舐めきれぬ苦汁に浸かれたその表情。
「おまえの性格が悪い理由がわかったよ…」
ウーロンが嘯いた。

(…がんばれよ、ヤムチャ)
ウーロンは生贄となるであろう男のために祈り始めた。
inserted by FC2 system