Alarm Call
てっぺんが好きなのよ。
ケーキの上のイチゴ。
空の彼方の星。
そうして星を探し、あたしはあたしの恋人を手に入れた。
イチゴのかわりに。

物事には順番がある。

あたしは今、次期社長としての仕事をしている。
周囲は羨ましがる。地位、財産、才能。有名、栄誉、学識。
学生時代の友人たちまでそんなことを言う。

わかってないのよねえ。女社長って大変なんだから(まだ社長じゃないけど。今は専務)。特にあたしは2世だし。
2世の女社長なんて、全然いいものじゃないのよ。
「女だてらに」「婿もとらず」「親の七光り」の3拍子(封建的?でも、時代が変わっても人はそんなに変わらないものよ)。
父さんはあたしのことを自分よりも才能があると言ってくれているし、社員たちもついてきてくれる。でもそれは、あたしの能力を知っているからこそのことよ。
社外の人間は知らない。だからまず、見せることが必要なの。
レベル的には下の人間に任せられることでも、自分でやって外に示して「見せる」のよ。
それが布石ってもんなのよ。
つまりは、後々スムーズに社長業を遂行するための、土台ね。

そんなわけで、1年目の今は正念場。ああ、でも、それにしても…

「…疲れた…」
帰り着くなりソファに突っ伏すあたしに、ウーロンとプーアルから労いの言葉がかけられた。
「ブルマさん、働きすぎなんですよ」
「おまえ、そのうち死ぬぞ」
つーか、労えっつーの!
「今、何時?」
「もうすぐ12時ですけど」
あたしはクッションに吐息をぶつけた。
「あ〜、朝まで眠りたい…」
その呟きに、ウーロンから至極最もな答えが返ってくる。
「眠ればいいじゃないか」
あたしはソファに寝転がったまま、顔だけをそちらに向けて睨みつけた。
「ダメよ。明日は学会だもの。質疑応答のシミュレーションしなきゃ…」
「これからですか?」
「おまえ、過労死決定だな」
もう本当、労えっつーの!
「…ちょっと、死ぬ死ぬ言わないでくれる?…」
大声も出てこない。
クッションを胸に抱きながら、あたしは空を見つめた。
「はーあ。…マジであたし死ぬかもね」
「だからそう言ってるじゃないか…」
呆れたように呟くと、2匹は寝室へと消えた。

フラフラと廊下を自室へと向かうあたしの前に、あのお気楽人間が現れた。
こいつだって結構苦労してるはずなのに、全然顔に出ないのよね。羨ましい資質だわ(嫌味よ)。
孫くんだってそう。さっすが体力バカって感じよね。
ヤムチャはそんなあたしの思惑も知らず(本当、能天気なんだから)、淡々とあたしに声をかけた。
「おかえり。っていうか、大丈夫か?」
「あんた起きてたの」
「まあな。っていうか、マジで大丈夫か?顔色悪いぞ」
言葉とともにあたしの顔を覗き見る。
「別に。ただ眠いだけよ」
苛立ちを隠しもせず、あたしは答えた。
瞬間、意識が飛んだ。
「おっと」
床に落ち込みそうなところをヤムチャに支えられる。
あたしはこめかみに手を当てた。
「…ヤバい、今一瞬眠ってた」
ヤムチャは感心しない顔つきで言った。
「おまえ、器用なことするなあ」

大丈夫だって言ってるのに、ヤムチャは部屋までついていくと言ってきかない。まあ、いいけど。
あたしの部屋のベッドに一緒に腰を落ち着けながら、ヤムチャはやれやれといった風に首をすくめた。
「おまえさあ、もうすこし仕事量減らせないのか?博士に頼むとか」
「父さんに頼んだら意味ないもん。…もう、半年」
「え?」
「もう半年したら楽になるから…」
「うん」
楽になるから何なのか、あたしにはよくわからなかったけど、そう言うあたしを見るヤムチャの瞳は優しかった。
「そうだな」
ヤムチャの声があたしの脳裏に優しく響く。体がほんのり温まる。
あたしは瞳を瞑った。
「…30分寝かせて…」

ヤムチャの膝に倒れこみながら、あたしはすでに寝入っていた。左手はヤムチャのシャツの裾を掴んで離さない(かったらしい)。
「しょうがねえなあ」
動かない体の真ん中で、あたしの心だけがその声を聞いていた。
「30分したら起こすからな」

あたしの目覚まし時計。時々どこかへ行っちゃうけど、いつも必ず戻ってくる。だから、
(手放せないのよね…)
あたしは夢の中で呟いた。
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