彼女の恋人(5)
ブルマは煮詰まっていた。
この世界に来てからもう3日も経つというのに、解決の糸口さえ見つからないのだ。
少女に悟られないようにその不在を狙い――それは概ね登園時間と就寝時間だった――或いはヤムチャに少女を押し付けて、自分が直前にいじっていた機器類を何度も分析してみたのだが、原因らしきものはさっぱり浮かんでこなかった。
「あーもう、やめやめ!」
ブルマは腐った。

苦虫を2、3匹まとめて噛み潰しブルマがリビングへ行ってみると、ヤムチャはあたり一面に飛び散らかったおもちゃを片付けているところだった。少女は幼稚園へ行っていて、いない。
耳に飛び込んできた荒々しい足音に、ヤムチャは顔を上げた。
「どうだ?何かわかったか」
ブルマはつまらなそうに答えた。
「さっぱりよ。そもそも、あの時いじっていたのと同じ物がこの時代にはないのよ。型番どころか形式自体違う物も多いし。お手上げよ」
「まいったなぁ」
今ひとつ危機感の感じられないヤムチャの声音を無視して、ブルマは先を続けた。
「それを差し引いて考えても、おかしいのよね、こんなことが起こるなんて。あたし別にタイムマシン作ってたわけじゃないしさぁ。無意識に作ってたとしたら、むしろ自分を褒めたいくらいよ」
「でもあの閃光が発端なのは確かなんだから…」
ヤムチャがまだ言い終わらないうちに、ブルマは思いきり不機嫌な声で叫んだ。
「何と言おうと、わからないものは、わ・か・ら・な・い!!」
諸手をあげてブルマがソファに飛び込んだ時、彼女と同種の、しかしそれより2トーンほど高い声が、主と共にリビングへすべり込んだ。
「たっだいま〜!!」
「…あら、おかえり」
ブルマはまったく気のない声で、少女を迎えた。
ソファにだらしなく体を埋めているブルマを認めて、少女は大げさに驚いてみせた。
「めっずらしーい!こんな時間にルーがいる!」
「悪かったわね」
不機嫌な声で呟くブルマを無視して、少女はヤムチャのもとへと駆け寄った。
「ヤム!あそぼー!」
ブルマの座っているソファにリュックを投げつけ、片づけを終えたばかりのヤムチャの背中に齧りつく。ヤムチャは妙に慣れた口調で言った。
「ご飯を食べてからね」
「はーい!」
少女は素直にそう答え、キッチンへと駆け出した。ブルマは呆れたようにヤムチャの背中に目をやった。
「よくも手懐けたもんだわね」
「何か言ったか?」
振り返るヤムチャの耳に、少女の声が飛んできた。
「ヤムー!早く早く!」
「はいはい」
少女を追ってキッチンへと移動しかけたヤムチャだったが、ふと足を止めると、自分の背後に佇む人物に向かって声をかけた。
「おまえも食べるか?」
この扱いに、ブルマはますます不貞腐れた。
「あたしはついでですか。あぁそうですか!」
「拗ねるなよ…」
ブルマの瞳に本気で険が篭っているのを見てとって、ヤムチャは呆れたように息を吐いた。ブルマはヤムチャの顔を見ようともせず、無造作に言った。
「コーヒーだけいただくわ」
(自分と張りあうなよ…)
ヤムチャはその言葉を飲み込んだ。
inserted by FC2 system