彼女の恋人(6)
気は急きながらもデザートのいちごプリンまで隙なく詰め込む少女と、隣に付き添い時折口のまわりを拭ってやるヤムチャを視界におさめながら、ブルマは密やかな声を投げつけた。
「…あんた、どこかに隠し子作ってるんじゃないでしょうね」
「何だよそれは」
「あんたのその父性は異常よ」
咎めるようなブルマの口調に、ヤムチャは片眉を顰めてみせた。
「そんなこと言ったってなあ」
不本意そうに口を窄める。その袖を、少女が引っ張った。
「ヤム、あーん」
「あーん」
大きく口を開けて、少女の差し出すスプーンを口に受けるヤムチャの姿に、ブルマは眩暈を覚えた。ヤムチャはブルマに向き直ると言った。
「相手がおまえだからやりやすいんだよ」
「…うまいこと言っちゃって」
ヤムチャのリップサービスを、ブルマはコーヒーと共に流し込んだ。
「それに、おまえは全然相手しないし」
「何が楽しくて自分に媚売らなきゃいけないのよ」
吐き捨てるようにブルマが言う。今度はヤムチャが咎める番だった。
「あのな、おまえがここにいるって言ったんだぞ」
「あら、そうだっけ?」
「おまえなあ…」
呆れと不満がヤムチャの心に湧き起こる。
(結局ブルマがこの子に構ったのは、最初の1日だけだもんなあ。詐欺だよなあ)
「…ま、かわいいからいいけどな」
思わず洩らして少女を見つめるヤムチャに、ブルマは顔を赤らめた。

再びリビングのソファに寝転がり、少女とヤムチャが遊ぶ様をしばらくはぼんやりと眺めていたブルマだったが、ふと思いついたように体を起こした。
「ねぇブルマ、パパの研究室って今も南端のあの部屋?」
おそらく疲れのせいだろう、まったく言葉に気を遣っていない。これにはさすがにヤムチャも聞き咎めた。
「おまえ、その聞き方はないだろう…」
「あぁはいはい、えっと、研究室ってどこなのかなぁ?」
しかも自棄になっているのか、慣れない品まで作っている。
少女は何かを探るように、ブルマを見つめた。
「ルー、研究に興味あるの?」
「…ん、ちょっとね」
(おいおい、大丈夫かよ)
ブルマと少女の会話を、ヤムチャは心に汗かきながら聞いていた。
「ふーん」
少女は考え込むように指を顎に当てたが、それ以上は言及しなかった。遅れてヤムチャがブルマの考えていることに思い当たった。
「待てブルマ。それはちょっとマズくないか?」
「しょうがないじゃない、八方ふさがりなんだもの。無駄に調べまわるより手っ取り早いし、可能性もあるってもんよ」
「それはそうかもしれないけど。…パラドックスは?」
「そんなこと言ってたら永遠に戻れないわ」
慣れない暗中模索に、ブルマは苛立っていた。というか、すでにキレていた。そんなブルマの思惑を、少女の声が後押しした。
「別にいいよ、研究室見ても。パパには内緒にしとくから」
簡単に言ってのける少女に、ヤムチャがそっとブルマに耳打ちした。
「スパイだとか、思わないのかな?」
「余計なこと言わないの!」
ブルマは一喝した。
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