彼女の恋人(7)
少女が壁のコンソールにパスナンバーを打ち込むと、微かな音をたててドアが開いた。
この一連の流れに、ヤムチャは至極自然な疑問を抱いた。
「何でパスを知ってるんだろうな」
「どうだっていいじゃない、そんなこと」
問題にしようともしないブルマの態度に、ヤムチャはさらに不審を重ねた。その時、2人の会話を聞きつけた少女が、邪気のない笑顔で言った。
「前に一度データ解析したことあるの。ヒマだったから」
ヤムチャはブルマの顔を見た。ブルマは慌てて頭を振った。
「あ、あたしはそんなことしないわよ!一緒にしないでよね!!」
取り乱したその表情には、前科の印が表れていた。
「…信じてやるよ」
心とは裏腹にヤムチャは言った。

ブリーフ博士の自室兼研究室は、いかにもそれらしかった。
「ふーん…今とあんまり変わらないのねぇ」
入り口近くに雑誌が山積みになっている。それを崩さないよう用心しながら、2人は研究室に踏み込んだ。ブルマがヤムチャに注意を与える。
「触った形跡は残さないでね」
「なんだか泥棒みたいだなあ」
触れた机についた埃の跡を見ながら、ヤムチャは苦笑した。ブルマは淡々と言い放った。
「実の親子で泥棒も何もないでしょ。ま、やってることはだいたい同じだけど」

ヤムチャは頭を抱えた。主にしかわからない法則でおそらくは整理されている室内の惨状に、どこから手をつけていいものやら、まるで見当もつかない。そんなヤムチャの素振りは無視して、ブルマは奥の書斎へと向かった。
「あんたはそっち。それらしいものを見つけたら教えて。中身はあたしが検めるから」
「それらしいものって何だよ」
「設計図とか、論文とかよ」
言い捨てると、自分は早々と書斎を検めていく。
「苦手なんだけどな、こういうの」
不平を口にしながらも、ヤムチャはとりかかった。その耳に、妙に楽しげなブルマの声が入ってきた。
「うわっ、懐かしーこの著者。そっか、この頃はまだこの学説が信じられてたんだ。時代を感じるわねえ」
彼は苦々しげに咎めた。
「真面目に探せよ」
「わかってるわよ」
(まったく勝手なんだからな)
ヤムチャは心中ぼやいた。

「で、何を探してるの?」

「うわっ!」
埃と沈黙の舞い散りかけた室内に、少女の声が響いた。ヤムチャは思わず手にしていた紙束を取り落とした。
「い、いたの?」
「ずっといたよ」
「……」
ヤムチャは言葉を失った。探索に気を取られ、少女の存在をすっかり失念していたのだ。
「で、何を探してるの?」
…これは一体どう答えたものかな。
しばし思案したあげく、ヤムチャは事実を口にした。
「…それが俺にもよくわからないんだ」
「ヘンなの」
言葉とは裏腹にさして気にする様子もなく、少女は机に尻を落ちつけ足をブラつかせながら、子ども特有の突飛さで言った。
「ルーってちょっとコワイよね」
「……」
ヤムチャは反論できなかった。
(聞こえてるっつーの)
ブルマが隣室で、積もる埃を叩き落とした。
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