彼女の恋人(8)
「見たことないタイプのカプセルだな」
ヤムチャの呟きに、めぼしく書斎を漁りつくしたブルマが顔を出した。ヤムチャの手元をすばやく一瞥すると、ブルマは言った。
「ああそれ。社内用に開発したやつよ。ロックがかかるようになってるの。…でも変ね、普通社外には持ち出さないはずだけど」
瞳に疑惑が湧き起こる。ヤムチャはブルマとカプセルを交互に見やりながら言った。
「あやしいな。開けられないのか?」
「そりゃ、あたしなら開けられると思うけど…」
続くブルマの言葉はなかった。ヤムチャは不審の目でブルマを見た。ブルマは喉の奥から絞りだすような声を出した。
「…あたしの中の第六感が、それを開けるなと言っているわ…」
「何言ってんだおまえ」
ヤムチャはブルマを見返した。ブルマの顔には深い苦悩が浮かんでいた。
「すっごくイヤな予感がするのよ。っていうか、以前それでイヤな目にあったことが…」
「でも開けなきゃ中わかんないだろ?」
ヤムチャの言葉にブルマは声を荒げた。
「孫君と同じこと言わないでよ!」
「悟空がどうしたって?」
さっぱり要領を得ないブルマの様子に、ヤムチャは訝しげな目を向けながらも、純然たる事実を述べた。
「そもそも俺たちそういうものを探しにきたんだからさ」
「そうね…そうよね…そうなのよね…」
ブルマは自分に言い聞かせるように呟くと、強くカプセルを握り締め目の上にかざした。
「もう1度。もう1度だけ信じるわ、父さん…!」
ブルマはカプセルを放り投げた。それは願いと共に弾けた。

バサバサと、大量の『何か』が空を切る音が、室内に響き渡った。続いて訪れる静寂。
少女が歓声を上げた。ブルマは喚声を上げた。
「わー!ご本がいっぱーい!」
「子どもは見なくていいのっ!!」
ヤムチャは少女を抱きかかえてそっぽを向いた。頬が赤く染まっている。
「あのくそ親父ーっ!ちっとも変わってないんだからーっ!!」
ブルマの叫びが研究室を揺るがした。

いながらにして存在をアピールするブリーフ博士であった。
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