彼女の恋人
子ども達の笑いさざめく園庭。園児達の輪から離れて、少女と少年が佇んでいる。
「ごめんね、ブルマちゃん」
「ブルマのプレゼントもらってくれないの…?」
「…うん、ごめんね」


世界有数の大企業C.Cの、ブルマは1人娘である。17歳という多感な時期の多くを、彼女は趣味の研究に費やしていた。
「よ〜しよし、あとはこれをはめるだけね。ふんふん、うまくはまってちょうだいよ〜」
最終関門らしき超極薄基盤を、およそ日頃の彼女の動作からはかけ離れた慎重な手つきで、そっとつまむ。
「いい子だから接合してちょうだいネ」

世界有数の大企業C.Cの、ヤムチャは居候である。その1人娘と同年齢である彼はまた彼女のBFでもあり、そこで過ごす時間の多くを、修行したり彼女に翻弄されたり彼女の母親に遊ばれたりして過ごしていた。
「あらヤムチャちゃん、ちょうどよかった。今お茶にしようと思ってたところなのよ〜。よかったらブルマさんも呼んでいらして、ネ」
プレッシャーさえ感じなければ非常にいい身分である。修行の合間に休をとった彼は、彼女の自室兼研究室へと足を向けた。
「ブルマ、ママさんがお茶にしようって。少し手をとめ…」
ヤムチャの声に、ブルマが顔を上げた。
その瞬間、火花が散った。
不運な男を巻き込んで。

ドオォォォォォォォン。
C.C内に爆発音が響き渡った。


「あれ、ここは…?」
「…部屋がふっとんだのかしら?」
「そんなわけないだろう」
2人はホールにいた。
見慣れたはずのC.Cのホール。だが何かが違う。
「ちょっと!いつまで乗ってんのよ!」
自分の上に覆いかぶさっているヤムチャに、ブルマが怒鳴りつけた。庇ってもらった嬉しさよりも、気恥ずかしさが先にたつ性格なのだ。
「あ、あぁ…ごめん」
彼も彼で、習性で陳謝する哀しい性。
片膝をつき腰を浮かせたヤムチャの鼻先に、幼い、だがどことなく聞き覚えのある声がつきつけられた。

「おじちゃん、誰?」

「お、おじちゃん…」
齢17歳、未だ幼さの残る若者は呻いた。そんな場合ではないのだが。
「くくく…」
笑いを堪えようともしないブルマ。だが彼女にも少女の攻撃は及んだ。

「この人、おばちゃんの恋人?」

鳥が囀る。小竜が飛ぶ。黒猫が一匹顔を出し、やがて内庭へと消えていった。
「…お、おばちゃんじゃないでしょ、『おねえちゃん』でしょ?あなたは――」
ブルマは口をつぐんだ。青い瞳、菫色の髪。その少女の姿には見覚えがあった。
ヤムチャが後を引き取った。
「お嬢ちゃん、お名前は?」

「あたし?ブルマ!年は5つよ!!」

「あっ」
2人は理解した。先ほどから自分達につきまとう違和感の正体を。
ブルマとヤムチャの佇むC・Cは、彼らの住むそれよりずっと新しいものだったのである。
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