Trouble mystery tour (7) byB
世界旅行初日のメインイベントは、グランニエールフォールズ。レッチェル市街地の北、丘陵地帯を越えたところにある、世界三大瀑布の一つ。滝の幅約1700m、最も深い滝壷は落差100mという、世界遺産にも登録されている大きな滝。
そこへ行くための『プレミアムクルーザー』と銘打った高級バスに、あたしはヤムチャに手を引かれて乗り込んだ。
「う〜ん…ちょっと頭がクラクラするわね…」
中央部のシートに座りフットレストに足を乗せながらあたしが言うと、ヤムチャは離した手をわざとらしく腰に当てた。
「だから飲み過ぎだって言っただろ」
「そんなこと言ったっけ?」
「何度も言いました」
まー、かっわいくない言い方。
そう思いながら、あたしはヤムチャの言葉を聞き流した。酔ってたって何も困ることないも〜ん。あたしはバカンスの真っ最中なんだから。ちゃんと手を引いてくれるやつはいるし、誰に迷惑をかけるわけでもないもんね。もしまた運転手がハイジャックしたとしたって、バスなんだから誰にだって運転できるでしょうよ。
あたしたちの乗っていくこの『プレミアムクルーザー』は、レッチェルはおろかここら南部には一台しかないという超高級バス。革張りシートを1列2席で配置した、わずか10人乗り。ゆったりとしたスペースに、各席に専用のテレビモニター。後席との間には仕切りがあって、プライベート感覚もばっちり。アテンダントが一人いて、ドリンクやスリッパなんかをサービスしてくれる。リムジンのバス版みたいなものね。
似ているとはいうものの、さっきリムジンに乗ってホテルへ向かっていた時とは、あたしの気分は全然違っていた。もうこの旅は始まってる。そうはっきり感じ取れた。だから、乾杯をする気はなかった。それはしばらくお休みよ。今日の乾杯は、あとは夜の一杯だけ。あまり立て続けに乾杯してると、特別感がなくなっちゃうからね。
だから、アテンダントが慇懃な笑みをあたしに向けてきた時、あたしはヤムチャを見なかった。
「お飲物はいかがしたしますか?赤、白、ロゼの地酒ワインと、オレンジ、マンゴーのフレッシュジュース、ミネラルウォーターを各種用意しておりますが」
「ワインをグラスで。そうね、一番飲み口のいいものを」
ただシンプルに、自分の希望を口にした。するとヤムチャが、それに文句をつけてきた。それはもう偉そうな顔つきで、窓際席のあたしとアテンダントを遮った。
「ワインはやめとけ。ペリエかバドワにしろ」
「えー、何でよ」
「何でって、もういいだけ酔ってるじゃないか。気分が悪くなる前にやめとけ」
「悪くなんかならないわよ。あんただって知ってるくせに」
だから、あたしも偉ぶって言ってやった。あたしは吐かない。そういうタイプじゃないのよ。あれよ、次の日になってから後悔するタイプよ。…全然自慢にならないけど。それに、自分の限界くらいわかってるわ。嫌なことがあったわけでもないのに、二日酔いになるほど飲んだりしないわよ。特に今日に限って、そんなヘマするわけないわ。
「それはそうかもしれないけど…」
「あんたが気乗ってないのは勝手だけど、あたしの邪魔はしないでよ。当然のサービスくらい受けさせてよね!」
ヤムチャが口篭ったその隙に、あたしは押し切った。まったく、ヤムチャってば、こういう時にばっかり彼氏面するんだから。彼氏面っていうか、保護者面。同い年のくせにね。
あたしはなかなかに気分を害した。害したけど、これ以上やり合うのはやめておいた。ここ、バスの中だし。観光は自由参加なのに、全員揃ってるし。第一、こんなの今更よ。いつもってわけじゃないけど、時々あるのよ、こういうこと。外で飲んだ時とかにね。
「あのう、お客様…」
身を引いたヤムチャの陰から、困ったようなアテンダントの顔が覗いた。あたしは条件だけを変えて、再び自分の希望を口にした。
「グラスワイン。アルコールの一番弱いやつね」
今度はヤムチャは何も言わなかった。事実を目にするまでもなく、あたしにはそうなることがわかっていた。…結局は飲ませてくれるのよね。どうせ飲ませてくれるのなら、気分よく飲ませてくれればいいのに。無粋っていうか、気の回し方、間違ってるわよ。
こういう時、あたしは時々考える。どうしてあたし、そんな無粋なやつが好きなのかしら。…ということでは、ない。どうしてあたしの周りには、そういう無粋なやつしかいないのかしら、ということだ。孫くんとか、クリリンくんとか、穴的なところでは天津飯さんとか。あたしは誰ともサシでお酒を飲んだことはないけれど、簡単に想像できる。誰ひとり、スマートにお酒を勧めてくれそうにはないわ。孫くんに至っては、ひょっとしたらお酒そのものに文句をつけてくるかもしれない。『何だこれ、変な味だなあ』とかってさ。無粋だから武道家になるのか、武道家だから無粋になるのか。難しいところよね。
それでも、あたしの知ってる男の中では、ヤムチャはかなりマシな方だと思う。…個人的に知り過ぎている部分を除いて考えるならば。孫くんも格好いいんだけど、あいつはヤムチャとは違った意味でダメダメだからね。孫くんは口を開いただけで、正体がバレるから。ヤムチャはまあ、二言目に正体がバレる、って感じ?天津飯さんはランチさんのものだし。他の連中は容姿が個性的過ぎるし。…あたし、男運ないんじゃないかしらね。
たいして気を入れずに、あたしはそんなことを考えた。導き出された仮初めの結論にも、全然ショックを受けなかった。でも、そのことに気がついた時には、ものすごいショックを受けた。
…いつの間にか、すっかり日常的な思考になってる。何だって旅行先でまで、普段の人間関係を振り返らなくちゃいけないわけ。もう、ヤムチャがつまんない一面見せるから。どうしてあたしの周りには……堂々巡りか。ダメだわ、こんなんじゃ。せっかく旅行してるのに。まだ初日なのに。本気で気分を切り替えないと…
「あたし、ちょっと寝るわね。何かあったら起こして」
「ん?ああ、はいはい」
そんなわけで、あたしは一時自分の意識を絶つことにした。それに対するヤムチャの反応は微妙だったけど、無視した。ついでにシートのリクライニング機能も無視した。何もかも無視して、ヤムチャの肩に頭を凭れた。
だって、気分を切り替えるんだから。夜に向けて調えるんだから。
それに、あたしこうしてるの好きだしね。


あたしは一度も起こされなかった。夢も見なかった。ただごくごく自然に、目を覚ました。なんとなく、体が後ろに傾いたから。
でも、目が覚めた時はまだ寝惚け眼だったので、その理由はわからなかった。あたしの意識に最初に入ってきたものは、自分の左肩に置かれた手だ。
あれ…?
飛行機の中では肩抱いてくれなかったのに。このバスの方がよっぽど狭いのに…
あたしはやっぱり寝惚け眼で、あたしの肩を抱き続けるヤムチャの顔を見た。その次の瞬間、体がまた傾いた。
今度は横に。まるっきりヤムチャの胸元に抱き寄せられた形で、あたしはそれを見た。
「あっ!見えた!グランニエールフォールズ!」
まさに今越えようとしている山腹の向こうに覗く、白い水煙。滝の手前に微かに浮かび上がって見える橋と、その下にかかる虹の橋。
「うん、見えた見えた」
「もう、気のない返事!」
すっかり眠気の覚めた頭で、あたしはヤムチャの態度を咎めた。
ヤムチャが無感動なやつだなんて思わない。だって、誰かが見たことない技とか使った時には、めちゃめちゃ反応してるもの。だから、どうして今素っ気ないのかはわかっていた。
「いつから見えてたの?起こしてくれたらよかったのに」
「ほとんど見えなかったよ。時々ちらつく程度でさ」
「ふーんだ、嘘ばっかり」
あたしが否定したのは、ヤムチャの口にした事実ではなかった。見えても見えなくても関係ないのよね、きっと。武道家って、ほーんと機微がないんだから。戦っている時はそれでもいいと思うけど、プライヴェートに持ち込まないでほしいわ。あたしと過ごしている時は特に。
心の中に不満を溜め込みながら、あたしは目ではグランニエールフォールズを追い、体はそのままヤムチャに預け続けた。今ではヤムチャが肩を抱いていた理由はわかっていた。バスが揺れていたからよ。だから、あたしもそれを理由にすることにした。
だって、こうしてるの好きなんだもん。
しょうがないわよね。


すっぱりとナイフを入れたような直線上の崖。そこから直角に流れ落ちる、白い飛沫となった大河。轟々と響く水の音。舞い散る細かな水飛沫。高く上った水煙。
まるで大昔の人間が考えた地球平面説の端っこのような風景。それをあたしたちは、対岸の崖を2つに割る川にかけられた、グランニエールフォールズ橋の上から眺めた。
「すごいわね。壮大ね〜…」
自分でも陳腐な言い方だと思った。陳腐っていうか、表現不足。でも、なんていうか、言葉が見つからなかった。意外と、気分を表す言葉って少ないものね。だけど、そんなことで片づけられないほど、ヤムチャの言葉は短かった。
「うん」
一応は橋の下を覗き込んだりしながらも、素っ気なくそう言った。それであたしは興奮のためではなく、まったくその反対の気持ちから、胸の前で両の拳を握り締めた。
もう、張り合いないんだから。そりゃあ――
ほんの少しだけ視線を横に動かすと、橋の欄干に身を乗り出して、人目も憚らず両手を振り上げる同行者の姿が目に入った。
「ぅっきゃー!天然のシャワー!!」
「シャンプーする?シャンプー!!」
――ああまでバカ騒ぎしろとは言わないけどさ。…あそこまでいくと雰囲気も何もないわよね。あんなんじゃ、いい男どころか男そのものが捕まえられないと思うわ。本当にお嬢様のはしくれなのかしらね、あの子たち。
例の女の子二人組を視界から追い出してから、あたしはいつもと変わらない足取りで半歩先を進む男を咎めてみた。
「あんたさあ、もうちょっと何か言うことないの?そりゃ、あんたはこんなとこ珍しくもないんでしょうけどね」
ヤムチャは少しだけ心外そうな顔をして、でもいつもとまったく変わらないのんびりとした口調で答えた。
「そんなこと言ってないだろ。俺だって、こんな派手なところには来たことないよ」
「だったらもっと感動しなさいよ」
中途半端に観光客っぽくきょろきょろしてないでさ(下調べしてるんじゃないかと思うわ)。大体、『派手』って何よ、『派手』って。どういう表現の仕方よ、それ。…確かに派手だけど。でも、情緒ってものがまるで感じられないじゃないの。
慣れって怖いわね。まさか『ちょっと滝に打たれていこうかな』とか言い出したりしないでしょうね?
ここであたしは、全然そんな気分ではないにも関わらず、ヤムチャの腕を取った。だって、先に行っちゃうんだもの。…ひとが寝ている時には肩抱いてくれたくせに。その前だって、手を引いてくれてたくせに。ちぇっ。
ヤムチャはとりたてて態度を変えずに、そのまま歩き続けた。上出来って言うべきなのかしらね、これは。ある意味ではいつもながらの心境で橋の真ん中辺りまで歩いた時、前にいた女の子たちからお呼びがかかった。
「あっ!写真撮ってくださーい」
「こっち、こっち。ここでお願いしまぁーす」
…なんかこの子たち、無駄に絡んでくるわね。さっきなんか露骨もいいところだったわよ。…何かしら。カップルが珍しいのかしら。そうかもしれないわね。どう見たって彼氏いなさそうだもの。いつものパターンとは違って、あたしのこと褒めてたし。憧れのカップルってところか。ま、当然よね。こんな美男美女カップル、そうそういないもの。だけどね、写真なんてものは、普通はアテンダントに頼むものよ。
心の中で文句をつけながらも、あたしはカメラのシャッターを押してあげた。この状況でそれを言うほど、意地悪じゃないわ。
「ありがとうございましたぁー」
女の子たちはだるい口調でお礼を言って、さっさとその場を去って行った。本当に、いかにも今時って感じね。悪い意味で。
後に残された小さな呆れを噛み締めていると、一時視界から消えていたヤムチャが、女の子たちがいた場所の欄干に体を凭れた。そして、おもむろに呟いた。
「あ、これか」
「何?」
「虹が輪になってる」
視線を追ってみるまでもなかった。ただその隣に立っただけで、すべてが目に入ってきた。滝壺の水面を覆い隠す、白い水煙。そこに映るあたしの影。そして、その周りに現れている、大きな七色の光の輪。
後ろを振り向いてみると、太陽がまさに真後ろにあった。下から上っている水煙は、確かに霧のようでもあった。
「これはブロッケン現象ね。似てるけど虹とは違うのよ。光が後ろから射して、影側にある雲や霧状の水滴に光が散乱して起こるの。すっごくはっきり出てるわね。珍しいわね〜」
甘ったるいカクテルと同じ色をした自然の光景は、あたしの気分をすっかり変えた。ここでなきゃ見られないものってわけじゃないけど、でも素敵な偶然よ。それにあたし、これ写真と実験室でしか見たことないし。猛々しい景色に浮かぶ、美しい虹色の輪。大自然のロマンよね。
「ふーん」
「きれいね〜」
「うん」
もう、また。
感傷に浸る間も短く、その感情が襲ってきた。だって、バスに乗ってる時からこれで3回目よ。いい加減、突っ込みだって入れたくなるわよ。
「『うん』じゃないでしょ、『うん』じゃ。せっかく大自然の中に身を置いてるのに。あんた、いくら慣れてるからって淡泊過ぎよ。修行してる時とは違うんだから。少しは気分出しなさいよね」
「いや、出してるけど」
「どこがよ」
あたしが否定したのは、ヤムチャの言葉ではなかった。…ヤムチャってば、いっつもそうなんだから。シチュエーションが変わっても、全然変わんないんだから。外でお酒飲んでも家でお酒飲んでも同じ。どこへ遊びに行っても同じ。雰囲気ってものがまるでないんだから。ショッピングに付き合わせる時とかならまだいいけど、これは旅行なんだから。もう少し、どうにかならないものかしらね。
あたしの思考はすっかり日常的になっていた。しょうがないわよね。だって、いつも一緒にいるやつ連れてきてるんだもの。知らない誰かと一緒に来た方がよかったのかしら。だけど、そんな人知らないものね…
怒りというよりは、呆れ。そしてそれが諦めに変わるのに、そう時間はかからなかった。…いいわ、もう。ヤムチャのことは荷物持ちとでも思っておくわ。もともとそのつもりだったんだし。いないよりはいる方がマシ…とも、ちょっと思えないけど。だってこいつ、ひとの気分まで殺いでくれるんだもの。…昼間は別行動にしようかしら。街に行く時以外は。うん、それがいいかもね。
あたしは今ではヤムチャの腕は取らずに、半歩先を歩いていた。さすがにこの心境で、腕を組もうとは思わないわ。そして、ヤムチャの方からそうしようという気配はない。まるっきりいつも通りよ。ふーんだ。
ほとんど惰性で歩いていると、やがて橋の端に着いた。橋を下りた先には、いくつかのロッジ風のレストハウス。少し歩けば緑の大地。そして、その向こうは別の街。簡単な身分審査を済ませれば、自由に足を延ばすことができる。エアカーのカプセルは持ってきてる。とりあえず、今日は付き合わせるとするか。あ、その前にあれやっていこうかな。大自然の中の絶叫マシン。滝の端からバンジージャンプ。確かどこかにあったはず――
「おーい、ブルマ」
「ん?なーに?」
ふいに後ろからかけられたヤムチャの声に、あたしはごく自然に答えた。すでに気分は落ち着いていたからだ。もう結論出したから。でも、それはすぐに覆された。
ヤムチャがあたしの手を取った時、あたしは少しだけ驚いた。次に胸元に引き寄せられたのには、かなり驚いた。そして抱きしめられた次の瞬間、思いっきり叫び声を上げた。
「きゃあぁーーーあぁぁーーー…!!!!」
足が地面を離れたからだ。空を飛んだわけではなかった。その反対。
…………落ちる。落ちてるーーーーー!
あたしは目を見開いたまま固まっていた。真っ逆さまに落ちていく視界を、飛沫の流れが埋めていた。さっきまで耳に響いていた水音は、風を切る音に取って代わっていた。肌を切る冷たい空気の中で、あたしを抱くヤムチャの体だけが暖かかった。でもそれは、何の気休めにもならなかった。
最後に、今まで決して見えなかった滝壺の水面が目に入ったからだ。
「きゃー!きゃー!…きゃあぁ!!!!」
ここへきて、あたしはようやく目を閉じることができた。そして、それとほぼ同時だった。これまで逆風に流されていた髪が、重力に引かれたのは。
「いきなり何するのよ!!」
水面の手前でようやく体を浮かせてくれたヤムチャを、あたしはすぐさま怒鳴りつけた。ヤムチャはゆっくりと視界を元に戻してから、いけしゃあしゃあと言い放った。。
「さてな。なんて言うんだっけ、これ。…フリーフォール?好きだろ、こういうの。命綱ない方が臨場感あるじゃないか。大自然の中に飛び込んだって感じしただろ?」
「意味が違うわよ、バカッ!!」
臨場感?そんなもの、あったわよ。あり過ぎたわよ。あのまま死ぬかと思ったわ。そんなことあるはずないってわかってるけど…わかってるけど、やるならやるってちゃんと言ってよ!!
「怖かったか?」
「怖いに決まってんでしょ!!」
ヤムチャは笑ってみせたりはしなかった。すでに笑っていたからだ。…何かしらこれは。嫌がらせ?そういえば、こいつの独擅場だものね、こういうところ。まったく、こういうつまらないことする時に限って、素早いんだから。ずるいんだから…!
思いっきりそっぽを向いてやりたい衝動に、あたしは駆られた。でも、できなかった。…そんなことをしたら、あたしが落ちるから。悔しさに唇を噛んでいると、さらにヤムチャが笑って言った。
「それはよかった」
「何がいいのよ!!」
「だってブルマ、この前言ってただろ。遊園地行った時さ。『ここの絶叫マシンもいい加減に飽きた』って。『もっとスリルがほしい』って」
あたしは思わず口を開けた。とはいえそれは、文句を言うためではなかった。
なーにそれ。
遊び!?単なる遊びだったって言うの!?今のこの、身を切るような飛び降りが!?身の縮むような一瞬が!?
…呆れた。本ッ当に、呆れたわ。始末が悪いなんてもんじゃないわ。一体どういう神経してるのよ。情緒どころか、常識さえないじゃないの!もっと普通に気を回せないの!?普通に!
今日これまでのどれとも違う気持ちから、あたしはヤムチャの肩に頭を凭れた。…どうやら、あたしの気分に付き合ってくれる気はあるみたい。やり方も、程度も、もうすべてが間違ってるけど。調子に乗ってるとか、空気読めてないとか、すでにそういう問題じゃないわ。はっきり言って、異常よ、異常。嫌がらせって言われた方が、よっぽど理解できるわよ。つまんないギャグを大量生産してみたり。こいつ、一体何のために修行してるのかしら。
「酔い醒めたか?」
「おかげさまで…」
酔ってなんかいなかったけど。何もかもが飛んでいったわ。
立ち上る白い水煙の中。霧雨にも似た水飛沫の中。ゆっくりともと来た宙を上がりながら、あたしはその音を聞いていた。
…まだ心臓ばくばくいってる。だって、迫力あり過ぎ。まったく、自然に勝るものはないわね。
自然と天然って、最強のタッグね。
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