Trouble mystery tour Epi.5 byY
『女三人寄ればかしましい』――確かことわざにはそうあったはずだが、俺の前では二人ですでにかしましかった。
「それでね、あっという間に二人ともやっつけちゃったの!なかなか格好よかったわよ。でもその後が大変でさ〜、何しろパイロットがいなくなっちゃったもんだから…まったく孫くんじゃあるまいし、信じらんない浅知恵よ。ランチさんもそう思うでしょ」
「それは犯人のやつらがバカだな。オレだったらバックレたまんま管制官と直接取引するぜ。で、それからどうなったんだ?」
ま、ブルマは一人で充分にかしましいからな。おまけに、口を開いた途端に色気がなくなる。それはブルマ特有のことだと思っていたけど、ランチさんも負けていないな。などと考えながら、俺はビールを喉に流し込んだ。
「あたしが操縦したのよ!アテンダントや乗客に白い目で見られながらね!ワインも機内食も何もかも操縦しながらよ!初っ端からそんな有様でさ、ヤムチャってば、なってないなんてものじゃないんだから」
「はっ、酔っぱらい運転か。やるなぁおまえ。オレ、ハイジャックする時はおまえらとは絶対一緒に乗らないことにするぜ」
相変わらず物騒な話をしてやがる。おまけにどうして最後に俺が貶されるのかがわからん。などと考えながら、俺は黒胡椒のきいた羊肉に齧りついた。
ブルマとランチさん。俺はこの二人が色気のある話をしているのをついぞ聞いたことがない。ランチさんはともかく、ブルマが意外に物騒な話の種を持っているのだ。ランチさんの物騒な話の振り方に応えきれるくらいには。さっき少しそれっぽい話をブルマの方から振ってはいたけど、それは見事にスルーされていたし。ブルマの振り方がまたひどいものだったからなあ。
などと考えながら、俺は羊肉を呑み込み、再びビールへと手を伸ばした。今や俺はすっかり傍観者になっていた。朗らかに笑うかわいい女ときりっとした笑みを浮かべる金髪の美女、傍目にはたぶん大変贅沢に映る光景のはずだが、実情は両手に花とは曰く言い難い。不快ということはないが、入り込めないことは確かだ。これは決して女二人に対し男一人だから、というわけではないだろう。
まあ、なんとなくわかっていたことだ。そう、全然意外なことではない。だから俺は料理を楽しみビールを味わい、二人の会話もそれなりに耳に入れていた。そんなわけで、ランチさんがくしゃみを漏らしたことにも当然気づいた。
「っくしゅん!」
同時に、自分の不覚にも気づいた。…そうか。黒胡椒の料理。一言注意しておいてやるべきだったな。別に変身したらダメだというわけではないが、なんとなくな。
「あら。あらあら、あらあらあら」
半ば条件反射で動きを止めた俺とブルマをよそに、ランチさんは慌ただしく料理を手放した。それでいて妙に落ち着いた目つきで辺りを見回し、わりあい見慣れた態度を取った。
「えーと、ここはどこかしら。あらブルマさんヤムチャさん、おひさしぶりですわね」
困惑しつつも現状を受け入れ始めているその態度。俺は思うのだが、青黒髪のランチさんもなかなか肝が据わっている。金髪のランチさんとは違う意味で。でもそこが共通点だ。
「亀仙人さんにお借りした飛行艇に乗っていたはずなのに。あのブルマさん、今日は何日ですかしら」
「今日は29日。ここはグリーンシーニ。あたしとヤムチャは旅行してて、さっき偶然ランチさんに会ったのよ」
再び会話が始まった。とはいえ、それはもう完全に0からのスタートだった。
「グリーンシーニ?まあ、ずいぶん遠くまで来たのね。あらもうこんな時間。ホテルに戻らなくちゃ。私どこに泊ってるのかしら。お二人ともご存じありません?」
「さあ…」
「困ったわ。そうだわ、飛行艇で休みましょう。オートパイロットにしておけば次の場所にも行けるし、ちょうどいいわ。カプセルはいつもポケットに…やっぱりあったわ」
「ここ飛行禁止区域よ。飛行場設備も飛行艇が離陸できそうな場所もないし、やめといた方がいいと思うわよ」
「まあ。それじゃ私どうやってここまで来たのかしら。お金はあまり持ってなかったはずなんですけど」
「さあ…」
おまけにランチさん自身が0の状態だ。曖昧な相槌を打ちながら、俺は思った。…酒入ってるはずなのに、いつもと全然変わらないな。もともとボケてるからわかりにくいのかな。
そして、そんなことを思っている間に、ブルマが言った。
「あたしたちの部屋に来ればいいわ。ゲストルームが空いてるから。明後日には次の場所に行くからそれまでに落ち着き先考えてね。ねえヤムチャ、いいわよね」
俺は思わず目を瞬いた。別にそれが嫌だというわけではない。でも、もっと簡単な解決法があると思うのだが。
「もう一度くしゃみをさせて金髪のランチさんに戻せばいいんじゃないか?」
ひょっとしてブルマの方が酔ってるのか?などと思いはしなかった。ブルマって頭いいくせに、こういう単純なことには気づかなかったりするんだよ。
できるだけさりげなく耳打ちした俺に、ブルマはウィンクを飛ばしながら答えた。
「いいじゃない、このままで。先を急いでるってわけでもないみたいだし。こっちのランチさんとだって、いろいろ話してみたいじゃない」
それで俺は引っ込んだ。特に反対すべき理由はない。もともと俺はエスコート役だ。自分に害が及ばない限りは従おうじゃないか。
「まあ、ありがとうございます。助かりますわ」
「じゃあ、もう一度乾杯しましょ。あたしたちとランチさんの旅に」
ランチさんは手を打って喜んだ。たいして恩を売る気配もなくブルマがビールを掲げた。こういうこざっぱりとしたところがブルマのいいところだ。そう思いながら俺も二人に続いてビールを手にしたが、それを掲げることはなかった。
「ところでねえランチさん、それで天津飯さんには会えたのよね?」
すぐさまブルマがそう言葉を続けたからだ。俺はすっかり呆れ返って、瞳をきらめかせるブルマを見た。
そういう腹か…
金髪のランチさんからは聞き出せなかったから、今度はこっちというわけか。なかなか粘るなあ。そんなに気になるかな。…まあ気になるかな。
そんなわけで、再び女の会話が始まった。そしてそれも0からのスタートだった。
「まあ、どうして私が天津飯さんを捜してるってわかったんですか?」
「ランチさんが自分で言ったのよ」
「そうだったかしら。覚えてないわ」
「ルート平原に行ったんでしょ。やっぱり岩場で寝泊まりしてた?」
「ブルマさん、何でもご存じなんですね」
まあ、さっきよりは脈がありそうかな。そのかわり、ものすごく時間がかかりそうだが。
やれやれ。それだけを心に呟いて、俺はビールを口にした。止めるつもりはないが、加わるつもりもない。そもそもこの手の話をしたことが、俺にはほとんどない。ウーロンに相談したりクリリンに茶化されたことならあるが、他人の色恋沙汰を根掘り葉掘り訊こうとしたことはない。
だからといって、ダメというわけじゃない。ただ俺はやらないというだけだ。俺と…そう、天津飯も。おそらくほとんどの男は、こんな風にあからさまに追及したりはしないはずだ。結局、女ならではってことなんだろうな。
そんなわけで、俺はまた傍観者となったのだった。


どうやら傍観し過ぎたらしい。
ということに気がついたのは、ブルマが席から立ち上がろうとした時だった。
「あら?…」
その呟きが漏れると共に足元が思いっきりふらついたので俺は慌ててその身を支え、ブルマの姿勢を崩させている腕の先にあった会計伝票を手に取った。しっかりとその手を掴んで店を出た。ホテルへ足を向けると、間もなくランチさんが心配そうに首を傾げた。
「大丈夫ですか、ブルマさん」
「大丈夫ぅ〜〜〜」
「大丈夫じゃないだろ。ったく、飲み過ぎだ」
まるで気の入らない声で答えた後ろのブルマに、俺は当然突っ込んでやった。『あら?』『あらら』…席を立ってからまだ5分、何度その声を聞いたと思ってる。おまけに他には何の言葉もなしだ。ここまで無力に引っ立てられておいて、『大丈夫』だなんて信じられるわけがない。例え神様が信じても、俺は絶対に信じない。
そう、この旅行中俺たちは何度も酒を飲んだが、たぶんその中で一番ひどくブルマは酔っていた。機嫌は悪くない。むしろ上機嫌だ。明日になったら記憶がなくなっていそうな、そんな上機嫌だ…
「ふう、暑いわね。お酒を飲んだからなおさらですわ」
溜息をつきかけた俺の斜め横で、ランチさんが呟いた。紅潮した頬に、潤んだ瞳。それでいて、いつもとまったく変わらない雰囲気。意外過ぎる彼女の様子に、俺は今度こそ溜息をついた。
正直言って、ランチさんのことばかり気にしてたんだ。金髪のランチさんはともかく、こっちのランチさんはいかにもお酒に弱そうだったから。だが、酒量も見た目の酔い加減もブルマとほとんど変わらないのに、この足取りの違いは…やっぱり同一人物なんだな…
当然と言えば当然のことを考えながら、俺は歩き続けた。やがて背中越しにブルマの声が聞こえてきた。
「ねえ、部屋に戻ったらカードしない?3人だからジン・ラミーはできないけど、一昨日みたいにまた賭けましょうよ」
なんとも陽気に、聞いたところからっとした口調で、ブルマは言っていた。とはいえ俺がぎくりとしたことは想像に難くないだろう。そりゃ、確かにもう一戦やろうと言ったのは俺だ。 でも何も、こんなに酔っぱらっている時に。一体何を言い出すやらわかったもんじゃない。っていうか、俺、賭けがしたかったわけじゃないんだが。
「あら、お二人とも賭けなんかしてるんですか。何を賭けたんですか?どちらが勝ちました?」
その思いは杞憂ではなかった。俺がちょっと考えている隙に女同士の会話がまた始まり、ほとんど同時にブルマが口を滑らせた。
「当然あたしよ、あ・た・し。賭けたのはヤムチャのせな…」
「あー、賭けてない賭けてない、なーんにも賭けてないから!!」
俺は慌ててそれを掻き消した。我ながらわざとらしい大声で。…ブルマのやつ、もう完全に酔っぱらいだ。きっと自分が何を言っているのかもわかってないぞ。
「うふふ」
ランチさんは口元に手を当てて小さく笑みを溢した。そのいつもながらのおとなしやかな笑い声には、どこか悪戯っぽい響きがあった。…全然誤魔化せてない。はっきりいって見透かされてる。俺は思わず冷や汗を掻きかけたが、ランチさんは言ってくれた。
「楽しそうですけど、私今夜は遠慮しますわ。お酒を飲んだせいかしら、なんだか眠くなっちゃって。休ませてもらってもよろしいかしら」
それはさりげない、聞いたところからっとした口調で。俺はすっかり胸を撫で下ろした。杞憂だった…とは思えなかった。ランチさんが見逃してくれたことはあきらかだ。でも構わない。具体的にバレてなければいいんだ。
まったく、バレていたらたまったもんじゃなかった。そりゃあ一緒に旅行してるんだ、何もないと考えてくれるはずもないだろう。子どもじゃないんだからな。でもそれにしたって、体裁というものがある。
今夜はランチさんに部屋もバスルームも貸すのだから。それなのにブルマのやつ……いくら酔ってるとはいえ、デリカシーないんだからな。


俺は本ッ当に、傍観し過ぎた。
と、ほぞを噛んだのは、部屋に戻ってからのことだった。
「ゲストルームはあっちね。ミニバーも自由に使っていいわよ。何か飲む?それともお風呂入る?」
おまえはもう飲むな!にこやかに言ったブルマに俺は心の中でそう突っ込んだが、それは半ば反射的な怒りだった。そしてランチさんがさりげなく水を向けてくれたので、実際に怒鳴らずには済んだ。
「そうですわね、お風呂に…でも、私は後でいいですわ。ブルマさんお先にどうぞ」
「ランチさんが先でいいわよ。さっき眠いって言ってたじゃない」
「ええ、でも夜風に当たったら少し目が覚めましたから」
「ダメよ。こういう時はゲストが先に入るものよ」
さらに間もなく、その怒りは呆れに変わった。酔ってなお慎み深いランチさんではなくブルマの態度に呆れながら、俺は二人の会話を聞いていた。この聞いたところいかにも女同士らしいやり取りの、理由がわかっていたからだ。酔っぱらい特有のしつこさ。それにより結果的に遠慮深くなったらしいブルマは、なかなか事を譲ろうとしなかった。
「本当に私は後でいいですから。ブルマさんこそ早くお休みになった方がいいですわ」
やがてランチさんがそう言った。まったく同意のその意見に俺は深く頷いた。するとブルマがけろりとして、また口を滑らせた。
「ん〜じゃあ、みんなで一緒に入るぅ?」
「さっさと入りやがれ!!」
「きゃ〜〜〜」
ここで俺は本気で怒鳴りつけることとなった。軽口というには、ブルマの視線は露骨過ぎた。それでいて反論もフォローもせず、笑い声を上げてバスルームへ駆け込んでいった。もはやいつもの口達者ぶりすらなく、ただただ思いついたことを口にしている状態だ。…あー、たまらん。まさか一昨日の罰ゲームが今さらこんな形で効いてくるとは…
俺がまさしく罰ゲーム気分を味わっていると、ランチさんがいなくなった当人に代わってフォローの言葉を口にした。
「ご機嫌ですわね、ブルマさん」
「まったく恥ずかしい限りです…」
俺は思わず頭を掻いた。こっちのランチさんでよかった。そう思いながら。
それでもなんとなく続く言葉を見つけられずにいると、ランチさんはにっこり笑って場をお開きにしてくれた。
「早速ですけど、お部屋借りますわね。荷物の確認をしたいので」
「ああはい、どうぞどうぞ」
いやー、こっちのランチさんって大人だなあ。…意外にも。

「るんるるんるるんるる〜ん」
やがてランチさんが鼻歌混じりに自分の時間を過ごし始めた。俺はというとなんとなく手持無沙汰になって、リビングで体を解しながらゲストルームから漏れてくるその声を聞いていた。
「ふんふふんふふんふふ〜ん」
しばらく経つと、今度はバスルームから鼻歌が聞こえてきた。バスローブを掻き合わせながらリビングへ戻ってきたブルマは、目の前にいた俺をすっかり無視して、ゲストルームへと消えていった。
「ランチさん、お風呂空いたわよ〜」
「ありがとうございます。でもヤムチャさんはいいんですか?」
「そんな気は遣わなくていいのよ。こういうことはレディファースト!」
ああ、そうだろうよ。
やや距離を置いて聞こえてきた女同士の会話に、俺は至極冷静に突っ込みを入れた。と同時に、そこはかとない疎外感を感じ始めた。女二人に男一人。しかもなんだか、その二人のテンションが妙に似ているじゃないか。本質的に大きな違いはあるが…一人は大人で一人は子どもという。ともかくも、いかにも女同士楽しんでいるという感じがする。
とはいえ、置かれた立場そのものに意外なところはなかった。そう、わかっていたことだ。ブルマがランチさんを招いたあの時から。今夜は時間と空間を、いつもよりは持て余すことだろう。
別に淋しいとか、そういうようなことはない。子どもじゃないからな。強いて言えばあれかな。昼間言いそびれたこと、ビーチでべたついたのは俺じゃないってことを言う機会を失くしたってところか。
「ヤムチャさん、お風呂空きましたわ。遅くなってごめんなさいね。じゃあ、おやすみなさい」
「あ、ども。おやすみなさい」
やがてランチさんがバスルームから出てきた。きっちりとバスローブを着込んで。言葉とは裏腹に早々と。まあ異常に早いということはないが、ブルマの風呂を待ってる時に比べれば断然早い。はっきり言って、全然待った気しなかった。そつないなぁ。俺は単純にそんなことを考えながら、無人のリビングを後にした。
俺もわりあい眠いな。さっさとシャワー浴びちまおうっと。


そういや、天蓋付きのベッドなんだった。
最後の最後、ベッドに入る段になって、俺はようやくそのことに思い至った。いつの間にか何とも思わなくなっていた。…慣れかな。嫌だなぁ…
相変わらず無人のリビングで、軽く溜息をついた。シャワーを浴びて酒が抜けたからだろうか。肌に触れる空気が涼しい。タオルを頭に纏わりつかせたままベッドルームへ行くと、ドレッサーの前にブルマがいた。ちょうど寝る支度を終えたところらしく、脱いだバスローブを丸めていた。
相変わらず支度が長いな。単純にそう考えながら、ドアを閉めた。まだこっちの部屋にいるとは思わなかったが、いること自体は意外ではなかった。ブルマが一晩だけのためにわざわざ荷物を移動するとも思えないので。そんなわけでとりあえず持っていたミネラルウォーターのボトルをサイドテーブルに置いたのだが、次の瞬間ブルマが元気よくベッドに飛び乗ったので、俺は思わず目を瞬いた。
「なんだ、今日は一緒に寝るのか?」
それとも俺はソファで寝ろってことだろうか。いくらなんでもそこまで疎外されてはいないと信じたいのだが。
ブルマは早くもベッドに潜り込みながら、悪戯っぽく瞳をきらめかせた。
「ランチさんなら構わないわよ。あんただって、さっき手繋いでたじゃない」
「それは…なんとなく…」
手くらいならいいかと思って。ブルマも何も言わなかったし。
だけど一緒に寝るとなると、さすがに感覚違うよなあ。ランチさんだって、きっとそうだろう。もう子どもじゃないからなあ…
俺は小首を傾げたが、口に出しては言わなかった。なんて返ってくるかが、およそわかっていたからだ。『そんな風に思うのは邪なことを考えてるからよ』――まったく潔癖なやつが言うならともかく、そうじゃないやつがそういうことを言うのは反則だと思うのだが、反論できないことは確かなのだ。それにちょっと思ってもいた。
子どもだなあ、と。なぜとはうまく言えないが、ふとそう感じたのだ。ただ単に疎外されなかったありがたさからかもしれないが、なんとなくブルマの態度がかわいく感じられたのだ。
俺はどこかゆったりとした気持ちになって、ブルマの隣に寝転がった。一つ新たな感覚を携えて。『そんな風に思うのは邪なことを考えてるからよ』――まったくその通り。別に一緒に寝るからってすると決まってるわけでもないんだよな。努めて物事を浅く考えるようにすれば。ここは一つ、俺も子どもになってみるか。
そう思った時だった。その子どもみたいな大人が体を寄せてきたのは。ブルマは昨日一昨日とは打って変わってしっかりと潜り込んだタオルケットから、茶目っけたっぷりな表情を覗かせた。
「どうする?する?」
それは完全に不意打ちだった。この状況でさすがにそれはないだろう。おまけに言い方の露骨なこと。でもその理由が俺にはわかっていたので、完全に呆れずには済んだ。
「ブルマの好きにしていいよ」
思いついたことをそのまま言ってるんだよ、こいつは。浅くどころか考えることすらなしにな。さっきからずっとそんな感じなんだから。でもだからといって、それがダメというわけじゃない。だって、つまり俺のこと忘れてなかったってことだろ。
「やる気のない返事ねぇ」
またもや露骨な言い方で、ブルマは文句を漏らした。いつになく緩やかな笑みを浮かべて。おまえもな。俺はそう言ってやりたくなったが、やめておいた。選択権をブルマに預けた建前上。
「そうね。じゃあ寝ましょ。たまには健全にね。おやすみ」
結果的にはそれでよかった。俺が何も言わないうちにブルマはそう言葉を続け、同時にその瞳を閉じた。
「おやすみ」
だから俺も瞳を閉じてキスをした。精一杯の軽いキスを。首をもたげた本音を隠しながら。
惜しいな。実のところそう思う。露骨だけど素直でかわいいから。
その気持ちを押し留めたのは、建前ではなかった。ランチさんへの手前、でもない。単に一つの僅かな懸念のためだった。
ブルマがすっかり酔いに侵されているのがわかっていたからだ。朝になったら記憶がなかった、なんて嫌だからな…
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