Trouble mystery tour Epi.8 (5) byY
翌朝――
朝食は、ベッドの中でとった。今なお余韻の残るベッドの中で。
「わぁ、このクロワッサンおいしい!」
「あ、本当だ」
「コーヒーもすっごくいい香り。ねえ、ワインどうする?開けちゃう?」
「そうだなあ…」
焼きたてのクロワッサンと香り高いコーヒー。黄身の濃いゆで卵に、極上のシャンパン。クリームのたっぷり添えられた濃厚なミニチョコケーキ。シンプルだがレベルの高い朝食。
「ベッドの中でおいしい朝食。おまけに朝からワインを飲んで。贅沢よね〜」
うっとりしたように呟くブルマの言葉に、俺も同意だった。続いて溜め息をつきながら零された文句にも。
「これで睡眠不足じゃなかったらねえ…」
「…まったくだ」
ベッドの余韻は体温の余韻、そして睡魔の余韻――『ベッドの中でとった』というより、『ベッドから出られなかった』というのが正解だ。
睡眠不足の理由は単純だった。夜中に叩き起こされたのだ。愛し合った後に訪れる、非常に心地いい睡眠を邪魔されたのだ。ガチャガチャとドアの鍵を打ち壊す派手な音と、サービスマンの大声によって。まったく、いくらドアが開かないからって、真夜中にこじ開けることはないだろう。普通に朝開けりゃいいだろ、朝。事の最中だったらどうしてくれたんだ。…その前の時間を邪魔されなかっただけよしとするべきなのかな、これは。
俺が一応の妥協点を見つけると、ブルマが俺の顔を覗き込みながら言った。
「ま、半分はあんたのせいでもあるんだけどね〜」
「…………」
「ね、ごはん食べたらラウンジ行きましょ。シャンパンもおいしいけど、今朝はトマトジュースなんかを飲みたい気分だわ」
「…同感」
「あ〜、眠〜い」
早くもガウンを緩めながら、ブルマが伸びをした。眠い眠いとは言いながら、いつもより元気だ。
「ごちそうさま。じゃあ俺、シャワー浴びてくる」
「あ、待って、あたしも行く」
だから俺も元気を取り戻すべくバスルームへ向かった。少し甘えたがりの余韻を残した女を引き連れて。


ラウンジは盛況だった。俺たちが行くと、それですべての乗客が揃ったようだった。
「あー、おはようございます、ブルマさーん!」
「ヤムチャさんもおはようございまーす!」
テーブルについた途端、ミルちゃんとリルちゃんが寄ってきた。相変わらず元気だなあ、と思う以上の活発さと瞳の輝き。簡単に言うと、軽い興奮状態になっていた。
「お二人とも、朝までお部屋に閉じ込められてたって本当ですか!?大変でしたね〜」
「あたしたちも大変だったんですよ!強盗にドアは壊されるし、やってたカードはぐちゃぐちゃにされちゃうし!またヤムチャさんがやっつけてくれるかと思ったのに、いないんですもん!」
「いやぁ、ははは…」
俺は頭と汗を同時に掻いた。…言えないなあ。部屋に閉じ込められていたことはともかく、中で何をしていたのかは絶対に言えない…
「でも美人強盗なんてかっこいいーーー!」
「映画みたいだったよね!」
「本当!なのに、誰に電話しても信じてくれないんだよね。あーそうですかって感じで」
「そうなの!もうつまんないったらないよね!」
幸い、二人は俺たちのことよりも、また自分たちのことよりも、『美人強盗』とやらに夢中のようだった。まあそれは双子に限ったことではなく、他のテーブルの連中も、ほとんど一団となって、がやがやとそれについて話していた。
「それはよかったわね。どうせ何も盗られてないんでしょ?」
クールなのは俺たちくらいのものだ。そして、特にブルマはクールだった。手で払うような仕種を、一応は双子ではなくテーブルに向けてしながら、無造作にそう言った。
「あれぇ、ブルマさんどうしてわかるんですかぁ?」
「あんたたちが盗られるようなものを持ってるとは思えないもの」
「あーっ、ひっどぉーい」
「あのね、ゼンメルさんたちが何か盗られちゃったみたいですよ。ほらあの、地味なおじさんとおばさん」
「そうそう、宝石だって。それもこーんな大きなやつ」
「そんなもの持ち歩く方が悪いわね」
いくらなんでもクール過ぎるんじゃないかと俺は思った。というか、ランチさんは俺たちの知り合いで、俺たちは見て見ぬ振りをしたわけで。要するに、罪悪感がいくらかあったわけだ。
「冷たいなあ、おまえ。少しは申し訳なく思ったりとか…」
「なんであたしたちが申し訳なく思わなくちゃいけないのよ。それに、どうせ保険かけてるわよ」
「あ、そういうもんか」
でも、それもすぐになくなった。そういうことなら、金持ちを狙うってのは、誰も損しないいい方法なんだなあ。とすら思った。
「…?何の話ですか?」
「あ、いや、何でもないよ。何でも…」
「ほらほら、行った行った。あんたたちがそこにいたら、ウェイターがいつまで経っても来ないでしょ」
さらに、ブルマがあからさまに双子を追い払ったので、話題そのものが変わった。やがてすぐにやってきた、今日も今日とて跪いてオーダーを取るウェイターに、ブルマはさらりと言った。
「トマトジュースのカクテルをお願い。できたらビールとウォッカ以外のお酒で作って」
「何だ、酒飲むのか?」
「景気づけよ。今日はいっぱい歩くからね」
そう言えば、今日は件の会話がまだだった。毎食恒例の『この後の行動について』。今朝はいろんな気分を引き摺ったまま朝食をとったからなぁ。今だにちょっと引き摺ってるし。と、俺は思っていたのだが、どうやらそれは俺だけであったようだ。
「ああ、下車するのか。じゃあ、俺もそれにしようかな」
「この真似っこ!」
「…いきなり辛辣になったな」
なんとなく合わせた俺に対し、ブルマはきっぱりと言ってのけた。…さっきまではブルマの方が俺に合わせてきていたのに。女ってどうしてこう切り替えが早いんだろう…
「何がよ」
「いや…」
「『エナジー』というマスカットの蒸留酒をベースにしたものはどうでしょう。レモンとライムの爽やかな香りと、クランベリーの甘味と酸味、ヨーグリートとトマトのおいしさの詰まった、爽やかなカクテルでございます」
「いいわ。それにして。それ二つね」
「かしこまりました」
素直なんだか天邪鬼なんだかよくわからないやり取りの結果、ウェイターは去って行った。ちなみに、今朝は昨日ほどあの視線を感じない。きっとそれどころじゃないからだろう。
周りはなんだか興奮気味にざわついているし、サービスマンは客のフォローをするので手一杯といった感じだ。それもあってか、ブルマはというと…
「今日はね、お昼頃にピタってところに停車するの。そこで夕方まで観光するのね。世界最古のエアレールとか昔のお城とかがある、古い町よ」
「ふーん」
至って淡々と、まるきりいつもの調子で、今日の予定を話し始めた。それに相槌を打ちながらも、俺は思っていた。
早いよなあ……雰囲気なくなるの。


新旧入り混じる街。それがピタの印象だった。
ところどころに中層ビルが立ってはいるが、その他のところは小さな商店がごちゃごちゃとひしめき合っていて、とても洗練されているとは言い難い。駅前の繁華街なんか、いっそ『バザール』と言った方がしっくりくるくらいだ。
その繁華街を通り抜けて、小さな駅へ行った。少し古びた二階建てバスに乗って。結構混んでいたので二階席へ座ったのだが、これがなかなかひどかった。運転が荒いのか、かなり揺れるのだ。具合が悪くなったりはしなかったが、こんなに揺れる乗り物に乗ったのはひさびさだ。遊園地の遊具に匹敵するな、これは。
そして、その次に目にした乗り物も、今ひとつ見慣れないものだった。
「これ、どういう仕組みなんだ?」
見た感じはエアレールなんだが、レールがない。といって車輪もついていない。なぜか駅の天井が低い。っていうか、天井がぶつかってる。
「上からぶら下げてるのよ。単軌条式懸垂エアレールって言うんだって。エアレールが発明された当初はこうだったらしいわ」
「繁華街の方に戻ってくみたいだけど」
「街の上を通っていくのよ。これのね、先にある峡谷のところがすごいのよ〜」
どうやら昔の乗り物らしい。そのせいか、ブルマの説明も短かった。ブルマにもよくわからない、昔の乗り物か。ある意味新鮮だな。
車両は一両しかなく、乗ってくる人間もそう多くはなかった。俺たちは一番前の、運転席の見える席に座り込んだ。発車して数十秒もすると、視界から地面が消えた。窓から見える景色は、俺にとってはわりと見慣れたものだった。
「うーん、なかなか飛んでるって感じがするなぁ」
舞空術で飛んでいる時と同じだ。眼下に望む街の風景。それをエアジェットではなくエアレールに乗って見ているというところに、一種の新しさとレトロ感がある。
「実際はぶら下がってるだけなのにね。あ、街を抜けるわよ」
結局、技術の問題じゃないんだよな、こういうのって。街中から郊外へと目まぐるしく変わっていく景色を見ながら、俺はちょっとブルマには言えないようなことを考えた。俺たちが普段乗ってるエアレールは浮遊システムを使って本当に浮いてるけど、こういう浮遊感覚はないもんなあ。スピードや安定性などの能力が同じなら、こっちでいいんじゃないだろうか。そりゃ技術的には古いんだろうけど味があるし、何より楽しい。
やがて山が見えてきた。エアレールは当たり前のように、その山の上空を走っていった。トンネルを抜け、急坂を下り、急カーブを曲がり、そして――
「わー、きたきた。谷を見下ろしながら走るのって爽快ね〜!」
「へえ、谷の上まで走るのか」
エアレールが谷の上を走ること自体はそう珍しいことではない。でもさすがに、列車が谷の上にぶら下がる、というのは新鮮だった。
「迫力あるわよねー。落ちたらどうしようとか考えるとちょっと怖いし!」
「その時は助けてやるよ」
まったく緊張感なく笑って言ったブルマに対し、俺はちょっと考えながら答えた。ブルマにもよくわからない乗り物なら、間違いなく俺の出番だ。一両くらい持ち上げてやるさ。
とはいえ、いつぞやの飛行機事故のようなことは起こることなく、エアレールは無事終点に着いた。終点は山。それほど高さはないが、丘ではなく山だ。俺が意外に思っていると、ブルマが笑顔で指示を飛ばした。
「じゃ、次はこっち。山裾に向かって歩くわよ〜」
珍しいな。ブルマが『歩く』ことに乗り気だなんて。それも山の中を。
「そっちに何があるんだ?」
「お城!」
「城?」
「むか〜しのね、古いお城よ。今はレストランになってるみたいだけど」
なるほど、旧エアレールの終点は、そこへのスタート地点だったわけだ。
「ふーん。昔の城か。じゃあ、あのお姫様もそこにいたのかな」
「ああ、ブルーナ王女ね。どうかしらね。この辺りって、小さな国がいっぱいあったみたいだから」
「亡国のお姫様と科学者の娘か。顔が似てる以外には、何の共通点もないよなあ」
「そうよね〜」
ブルマはもう何も気にしていないように、俺の振った話に付き合った。俺も、特に気にしていたわけではない。ただなんとなく思い出しただけだ。この時気にしていたのは、ブルマの精神面ではなく、体力面だった。
「はぁ〜、疲れた〜。ねえ、先にご飯食べよ。お腹空いたし、もうこれ以上は歩けないわ」
「はいはい。その城を改造したとかいうレストランだな」
そしてやっぱり思った通り城に着くや否や音を上げたので、あらかじめ予想していたその場所に足を向けた。ここにきてようやく俺は、ブルマの行動パターンを把握すると共に、生活を離れ旅することの本質を、頭ではなく体で感じるようになっていた。
それは風の向くまま『食う』『寝る』『遊ぶ』ことだ。


『寝る』ことに関しては満足してるとは言えないが(ある意味では満足してると言えるけど。…大人的な意味で)、『食う』ことに関しては、どうしたって充分過ぎる。
そう思いながら、カトラリーをテーブルに置いた。手にしたばかりのデザートフォークを。
「すっごいわねー、ここ。本当にお城の食事会に来てるみたい。料理が何倍も美味しく感じるわ」
「そりゃまあ、本物の城だからな」
「まっ、正直言えば味はあたしたちの列車のレストランの方が上だけどね。特にデザートなんか最高だったわ」
「そうだな。ところでデザート、俺の分食べないか?」
食事を終えてなお食べ物のことを語るブルマに、俺はそう切り出した。いつもの、イチゴのデザートをやったりする時とはまるで違った心境で。
「何?食べないの?」
「ああ。ちょっとクリームが辛くてな…」
今朝まではブルマに合わせてデザートまで食べてきたのだが、ここにきてちょっと辛くなってきた。ここのところ、チョコレートフォンデュ、アフタヌーンティと、立て続けに甘いものがきてるからな。そもそも基本的に男は、毎食後デザートを食べるのはキツい。
「勿体ないわねえ。デザートは食事の良し悪しを決める大事な要素よ」
「そんなこと言ってもなあ。甘いものはせいぜい一日一回でいいよ、俺は」
「コーヒーには毎回砂糖入れてるくせに」
「それとこれとは別だろ」
「じゃ、いただきまーす」
会話をぶった切って両手を合わせると、ブルマはそれは幸せそうな顔をして、俺の分のデザートを食べ始めた。うん、いいことをした。それに俺も助かった。一石二鳥ってやつだな、これは。
いや、三鳥かもしれない。最後に小さなイチゴの菓子を頬張ると、ブルマは俄然元気になって、もとよりわりとよかった機嫌をさらに向上させた。
「よぉーし。エネルギー充填完了!では、お付きの者よ、城の中へ案内しなさい」
「誰がお付きの者だ」
「ノリ悪いわね〜。ここは『かしこまりました』って言うところでしょ」
「はいはい、かしこまりました」
「あんた、さっきから微妙にかわいくないわよ」
「それは申し訳ありませんでした」
俺は思いっきりバカ丁寧に頭を下げてやった。所謂『慇懃無礼』というやつだ。俺は絶対にお付きの者の真似なんかしないぞ。だって、実のところはそうなんだから。
実質はそうだからこそ、そうじゃないように振舞うのだ。じゃないと、本当にお付きの者になってしまうじゃないか。俺は一応恋人なんだからな。…我ながら虚しいプライドだ。
そんなわけで、お付きの者ならぬ恋人である俺は、ブルマを案内しなかった。だが、それはプライドの結果ではなく、できなかった、というのが本当のところだ。
だって、俺自身、城の内部が全然わからないんだからな。
まあ、生まれて初めて訪れた城で(俺が今までに行ったことのある城と言えばピラフ城くらいだ。でもあれは、城というよりアジトだった)、全然わからないところのないやつもそういないだろう。しかもこの城は、大きい上に城というイメージに掠りもしない円柱形で、長い廊下は当然のごとくカーブしていて方向感覚が麻痺するところに、窓が延々と等間隔に並んでいてどこまで行っても景色に変化がなく、うっかりするといつの間にか一周してしまったりするのだ。
「あ、ヤムチャ、こっちよこっち。そっちにはもう何もないわよ」
だからむしろブルマに案内されながら、城を歩いた。ブルマはほとんどの人間よりも脳みその皺が多いからな。と、思っていたのだが、ブルマにはブルマなりに迷わない理由があったようだ。
「なんかうちみたいね。屋根はドーム状じゃなくて円柱形だけど、それ以外はそっくり。おかげで迷わなくていいわ」
「そう言われてみるとそうだな…」
俺は軽く昔を振り返った。確かに初めてC.Cに足を踏み入れた時、今と同じようなことを思った覚えがある。広過ぎる…と。部屋を与えられたはいいが、どこかわからん、などとも。それはC.Cが城みたいってことか?まあ、当たらずとも遠からずかな。あそこは現代の王国みたいなもんだ。C.Cの金持ちっぷりは、常軌を逸してるもんな。
その常軌を逸した金持ちの娘はさっさと先を進み、やがてある部屋を前にして立ち止まった。そこはとある王族の一室で、入り口横の壁にはその部屋の主の肖像画がかけられていた。
「…ここの人だったんだ…」
そう呟くブルマとは明らかに異なる表情をした、ブルマに非常に似た女。女と言うのは失礼か。その名もブルーナ王女だ。この肖像画で見ると、ブルマとは少し目と眉の感じが違う。ブルマほどは意思が強くなさそうというか、冷静そうな感じだ。でもきっとそんなこと、俺以外の人間は気づかないだろう。
「これはあまり長居しない方がよさそうだな」
「…そうね」
ブルマが頷いたのをいいことに、俺は踵を返した。自分の彼女がこそこそ見られたりするのは、あまり気分のいいものではない。ブルマにも似てることを自慢する様子はなさそうだから、ここはもう退散していいだろう。と、思ったのだが、遅かった。すでにブルマは発見されていた。
「ブルマさん!ブルマさーん!」
「ちょっと通して〜。ブルマさん待ってー!」
踵を返した直後に、その双子の声が聞こえた。王女の絵の前に集まる人だかりを押し退けて、小走りにこちらへ駆けてきた。
「ブルマさんとヤムチャさんも来てたんですね!」
「ここ行きのバスに乗ってなかったから、違うところに行ったのかと思ってました」
「見ましたよ!王女様の写真!すっごいですね!もうびっくりしちゃいましたぁ!」
双子たちは軽い興奮状態になっていた。っていうかこの子たち、今日はずっと興奮してるな。箸が転がっても興奮する年頃なんだろうか。
「何がすごいのよ?」
「だってブルマさん、王家の血を引いてるんでしょ!すっごいですよ!!」
「王家の末裔!すってきぃーーー!」
「そんなんじゃないから。あれは単なる他人の空似!あたしの両親はこの上なく俗物的な一般人よ!」
いやー…一般人じゃないと思うなあ。
ブリーフ博士はどうしたって一般人じゃないし、ママさんだって一般人と言い切るには、浮世離れし過ぎてる。俗物的っていうのもちょっと…いやちょっとどころか、どうしたって俗物的じゃないよなあ。
色々な意味で俺が首を捻ったことに、ブルマはらしくないほど冷静に、二人の言葉をあしらった。…ちょっと謙虚過ぎるよな。謙虚過ぎて嘘になっちまってる。
「えーっ、そうなんですかぁ?」
「なんだぁ、つまんないの〜」
それでも俺は口を挟むことはせず、会話が終息するのを待った。今はそういうことを言ってる時じゃないから。
「それじゃ、あたしたち帰るから。…あんたたちはエアレールで帰るのよね?」
「はーい、そのつもりで〜す」
「絶対一番前の席に乗るんだもんね!」
「はい、じゃあ、がんばって山登ってね。バイバ〜イ」
「ブルマさんもがんばってくださいね〜」
「二階建てバス、超〜揺れますよぉ」
「平気よ、そのくらい。あたしはいろんな乗り物に乗り慣れてるからね。さ、ヤムチャ、行くわよ」
あからさまに立ち去りたい様子を見せるブルマに、双子は寛大に手を振った。いや、この場合寛大なのはブルマかな。一応ブルマも手振ってるし。どっちかっていうと『しっしっ』って感じだけど…
当たらずとも遠からず。やがて、ブルマはブルマなりに寛大心を発揮していたらしいということが、本人の言でわかった。
「あれぐらい不躾だと、逆にはっきり言えていいわ。列車のサービスマンなんて慇懃無礼って感じだもんね」
ふーん…これはある意味、心を許してるってことなんだろうな。ブルマは身近な人間になればなるほど、地を出すからなぁ。とはいえ、好いているかどうかはまた別だが。
つまり、今や俺はかなり身近なので、扱いが酷い。うっかり口を滑らそうものなら、それはもう容赦なく反撃される。一応は好かれているからこそ、首の皮一枚で繋がっていられるのだ。
…慇懃無礼、気をつけよっと。
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