変わらない男
髪を切った。
どうという理由もないけど。
街を歩いていたらわりと好きめの服を見つけて(赤のワンピースで、シンプルなんだけどすごく縫製がいいの)、これはショートヘアのほうが似合うなぁ、と思ったら、
飛び込んでた。ヘアサロンに。

「ブルマ、それってひょっとして失恋?」
「もしかして、ヤムチャと別れたとか?」
友達はうるさい。
特に後者は下心が見え見えで本当にいやんなる。
別れてないっつーの。
だいたい2週間前から会ってないんだから。
ヤムチャは最近修行と称してどっか行っちゃうことが多くて(だいたい2〜3週間くらいで帰ってきて、その度行き先も言っていくんだけど、たいてい山の中とか荒野とかだから行きようがない)、今回もあたしが髪を切る1週間前にいなくなっちゃったから、このことは知らない。
あたしたちがあんなふうに言われてるって知ったらどう思うんだろ。
どうもないか。あいつ鈍いもんね。
っていうか天然?
孫くんとは違う意味で他人のことを気にしないっていうか。
武道家ってみんなあんななのかしら。
あー、やだやだ。


つまんない。
あんまりつまんないから学校サボっちゃった。
「ただいま」
誰もいない。
父さんは会社かしら。めずらしい。
母さんはウーロンたちを従えてショッピング、かも。
まあどうだっていいけど。
あーあ。
あたしもどっか行こうかな。

何となくくさくさする気持ちでリビングへ行った。そしたら、

隣のキッチンでヤムチャがコーヒーを飲んでいた。

「おかえり、早いな。また学校サボったのか?しょうがねえなあ」
言うにことかいてこのセリフ。あんた何様のつもりよ。
「それはあたしのセリフよ!あんた一体どこ行ってたのよ!?」
「東の谷で修行してくるって言ったろ」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」
相変わらず鈍い男。
「今頃帰ってきたって知らないわよ!あたし忙しいんだから!」
「そうか、そりゃ残念だな。まあがんばれよ」
だから嫌味だってば。少しは気づけっつーの。
バカッ天然!

あたしは座りかけたソファから離れて、さっさと部屋を出ていこうとした。そしたらあたしの背中に向かってヤムチャが言った。

「髪、切ったんだな」
「よく似合ってるよ」

…………

ほんっと天然なんだから。
…バカ。

あたしは踵を返してキッチンチェアに腰をおろした。
手当たりしだいにカップをとって、コーヒーを注ぐ。
「あれ、忙しいんじゃなかったのか?」
「…あんたって本当にバカね!」

「…なんであんたなんだろ」
あたしは砂糖もミルクもなしの苦みばしったコーヒーを飲みながら言った。
「運命だからだろ」
コーヒーに砂糖を2杯も入れる甘党の男はそう言った。
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