張られる男
決めたのよ。半年は会わないって。
あいつがじゃないわよ。あたしがよ。
らしくない?ちゃんと理由はあるわ。
あいつは精神が弛んでるからね。出発の日の様子からもわかるでしょ。
事の掛かり始めは集中したほうがいいわ。結果的にもそのほうがいいのよ。あたしはそれをよく知っている。
それに、あたし自身それほど寂しいとも思わない。今のところはね。

ヤムチャが行ってしまって、あたしの気分は変わった。
こんな言い方するのもなんだけど、妙にすっきりしたの。
爽やかささえ漂っているわ。あいつが知ったら泣くかもね。
こんなあたしの態度を見て、ウーロンが言った。
「おまえ、本っ当に冷たいやつだよな…」
かなり本気で言ってたわね、あれは。
まったく、放っといてほしいわね。あたしの人生よ。どうしようと勝手でしょ。
プーアルは時々会いに行ってるみたいね。カメハウスが今どこにあるのか教えてくれたから。…あれはひょっとして、あたしに会いに行けってことだったのかしら。
まったく、どうして誰も彼も、恋人たちは離れると寂しがるって思うのかしら。嫌になっちゃうわね。
そんなことに拘っているほどヒマじゃないのよ、あたしは。
あたしは、ある研究を始めることにしたの。何の研究かって?それは内緒。
だいたい、まだ着手してないし。っていうか、どこから着手していいのかわからないというのが本音だけど。
…そうなのよね。どこから手をつけていいのか、まるでわからないのよ。
モルモットがいないのよ、モルモットが。この間まではいたんだけど。タイミング悪いわよねえ。あいつってどうしてこう、いつも間が悪いのかしら。
あいつが行ってからそろそろ3ヶ月が経つ。あたしもいい加減着手したいんだけどなあ。う〜ん…

あたしは机に突っ伏した。朝の4時。完徹よ。
言っとくけど、あいつのことを考えてて眠れなかったとかじゃないわよ。誤解しないでよ。昨夜から、エアバイクを改造してたのよ。そうしたら、いつのまにか朝になっていたのよ。本当よ。
妙に高揚した気分で(徹夜明けの朝ってそうなるわよね)あたしが顔を上げた時、それが目に飛び込んできた。
正面の壁に1枚のメモ。プーアルの文字。
それはあいつの修行スケジュール表だった。
…呆れた。
何よこれ。あたしがこんなもの見て動くとでも思ってんの?バカにしないでよ。
全然寂しくないったら。本当よ。
あたしはプーアルの顔を思い出した。
なんであいつって、あんなにヤムチャに従順なのかしら。異常よね。
あいつらの馴れ初めとか今までまったく興味なかったけど、こうなってくると俄然気になるわね。ヤムチャってばあんなのんきな性格してて、どうやってプーアルをたらし込んだのかしら。カリスマ性なんか全然感じられないやつなのに。
あたしはヤムチャの顔を思い出した。そして常にあいつの傍にいたプーアル。
…しょうがないわね。行ってやるか。武士の情けよ。あたしは寛大なのよ。

あたしはほとんど女神様のような気持ちで、あいつのところへ行ってやった。あいつは牛乳配達をしているところだった。…よくわかんない修行よね。本当にこんなので大丈夫なのかしら。
あたしの顔を見て、ヤムチャは開口一番こう言った。
「おまえ、こんなところで何してるんだ?」
何よそれ。せっかく来てあげたのに。失礼しちゃうわ。
「別に。通りかかっただけよ」
嘘じゃないわ。本当よ。
「ずいぶん地味なことしてんのね」
修行って言えば聞こえはいいけど、実際はただのバイトじゃない。あんた、騙されてんじゃないの?
「ああ。基礎体力をつけるためなんだ」
そんなもんかしら。でも牛乳配達の人って、そんなに強そうに見えないけど。
「ふうん。ま、がんばってね」
あたしはそれだけ言って立ち去った。任務完了。ほらプーアル、これでいいんでしょ。
まったくあたしも甘いわよね。

結局会っちゃったわね。あーあ。何でかしら。
でも、時々こういう、自分でも把握できないことってあるわよね。誰だってそうよね。
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