痒い男
天下一武道会も終わった。ピッコロも倒した。
再びやってきた平和。戦士の休息――

に似つかわしくない仏頂面。そんな顔した男が、1人いた。


「あんたも本当、タイミングの悪い男よね」
シャーレに張った水の中に、1粒のセシウムを落とし込みながら、あたしは言った。
「せっかく大団円なのに。せっかくハッピーエンドなのに。せっかく夏なのに」
そのなりじゃ、海にだって行けやしない。
部屋の真ん中で、床と抱擁するように体を動かしていた男が、おもむろにその身を起こした。
「もう言うなって…」
そしてあたしの投げつけたタオルで汗を拭った。

ヤムチャは最近頻繁に、あたしの部屋へやってくる。
特に夜。夕食の後、あたしが個人的な研究をやっている時なんかに。
だからといって、研究の内容に興味を示すわけでもない。時々言葉は交わすけど、基本的には一人で黙々と、床の上で筋力トレーニングなんかをやっている。
以前はこんなことなかった。足を骨折するまでは。修行が(ほとんど)できなくなるまでは――
…ヒマなのよね、要するに。
踊り狂うセシウムに火を放った。あっという間に、それは煙を吐き始めた。
デスク横のスツールに片胡坐を掻きながら、ぼんやりとその様子を見ているヤムチャの左手を、あたしは咎めた。
「何やってんのよ」
その手は一心に、一箇所を弄っていた。服の下からでも触れられない肌の上――左足のギプスを。
「痒いんだよ」
「ギプスの上から掻いたってどうにもならないわよ」
そんなこと、自分でよくわかるでしょうに。
「だって、本当に痒いんだぞ」
答えにならない言葉を吐いて、ヤムチャは渋面に輪をかけた。


「…機嫌悪くて嫌んなっちゃうわ」
シャーレに張った水の上で踊り狂う1粒に、火を放った。
学院の化学研究室。僅かに差し込む夕陽の中、あたしはディナと四方山話を楽しんでいた――いえ、正確に言うなら、楽しんではいなかった。
「珍しいじゃない、あんたがそんなことボヤくなんて」
頬杖をつきながら、ディナがおもしろそうにあたしを見上げた。
「だって、本当に機嫌悪いのよ」
せっかく平和になったっていうのにさ。平和になる前より機嫌悪いって、どういうことよ。
これはディナには言わなかった。言えなかった。…友人が普通じゃないって、辛いわね。
まあ、そのおかげで平和になったわけではあるんだけどさ。
シャーレから火が消えた。あたしは新たな1粒を放り込んだ。そんなあたしに、ディナが訝しげな目を向けた。
「あんた、さっきから何やってんの」
「ストレス発散よ」
どうせ素材の残りだし。捨てるも燃やすも同じようなものよ。
「やめてよ。それセシウムでしょ。怪我でもしたらどうすんの」
「そんなヘマしないわよ」
あたしはあいつじゃないんだからね。
呆れたようなディナの顔を、あたしは無視した。


夜、またヤムチャがやってきた。もうすっかり通い夫ね。…全然うれしくないわ。
あいつってば、不機嫌だけ撒き散らしてさ。雰囲気もクソもありゃしないんだから。そんななら、いない方がまだマシよ。
今夜のあいつは、床に手をつこうとはしなかった。いつにも増した仏頂面で、いきなりスツールに座り込んだ。あたしはシャーレを取り出した。
「…なあ、痒みを抑える薬とかないのか?」
どことなく抑制されたその声音に少し意外を感じながらも、あたしは即座に答えた。
「あるけど、病院で出されてるのと大して変わらないわよ。それに、あたし医学は専門じゃないし」
当然の答えよ。
医者は患者個人の状態に合わせて常に最善を尽くしているのよ。ちゃんとそれを信じなさいよ。そこに横から手を出すわけにはいかないのよ。…あたし、医学は専門じゃないし。
科学者の卵であるあたしには、こいつの担当医の苦労がわかった(医学も科学の一部よ)。まったく、うるさい患者だわよ。
ヤムチャは黙った。論破したと見たあたしはシャーレを引っ込め、本来の研究材料に手を伸ばしかけた。その時だった。
「…役立たず」
「何ですって!」
ヤムチャが口を押さえた。何、その態度。
あんた、あたしにそういうこと言うわけ?そんな風に思ってるわけ。
「じょ、冗談だよ。冗談」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるわよ!」
だいたい、冗談だったらどうして口を押さえるのよ。
あたしは右手を振り上げた。ヤムチャがそれを掴んだ。
「離しなさいよ!!…あんた、卑怯よ!!」
こいつ、何でこんな時だけ武道家ぶりを発揮するのよ。それならそれらしく、初めっから口を慎めってもんよ。
あたしの手を離すと同時に、あいつは飛び退った。…ムカつくったらありゃしない。
「出てってよ」
あいつの顔は見ずに、あたしは言い放った。そして、シャーレに水を注いだ。
背後でドアの閉じる音が聞こえた。


翌朝、あたしはだいぶん早めに目を覚ました。
昨夜のことはもういいわよ。いえ、よくはないけど、あいつの失言なんて慣れてるわ。情けないことにね。
もちろん許しはしないわよ。当然、いたぶってやるわ。いくら謝ったって、そこは容赦しないんだから。
学院のための支度まですっかり整えて、あたしはC.Cの外庭へと向かった。毎朝、あいつはそこでトレーニングをしている。本格的な修行はまだ無理だけど、筋力トレーニングとか、足に負担がかからない程度の技試しとか。医者はダメって言ってるらしいけど、あたしはそこまで咎めるつもりはなかった。しょうがないわよ、あいつは修行バカなんだから。おまけに本当のバカだし。
本当にバカよね。あんなの、いくらだって誤魔化せるだろうにさ。…ま、そんな男、あたしは嫌だけど。
外庭の真ん中に、あいつの姿が見えた。と同時に、あたしは駆け出した。
「ちょっとあんた!何やってんのよ!」
ヤムチャは掌に気を溜めていた。大地に両足を踏みしめて。きっとかめはめ波よ。って、そんなことどうでもいいわ。
問題はその体勢よ。それがどれだけ足に負担をかけているか。武道がわからないあたしにだって、それは一目瞭然だった。
「あ、おはようブルマ」
あたしの姿を見て、ヤムチャはのんびりと姿勢を崩した。
「昨夜はごめん。俺…」
「そんなことどうでもいいわよ!あんた何やってんの!!」
訊くまでもないことをあたしは訊いた。ヤムチャの返事もまた、言うまでもないことだった。
「何って、修行だよ」
「ダメに決まってるでしょ、そんなこと!」
「別に平気だって」
平気じゃないっつーの!
だからバカは嫌なのよ。素人は嫌いなのよ。
治さなきゃいけない時に何やってんのよ。悪化させてどうすんのよ。本当にバカよね。
「あんたに、ジュニアスクールの子でも知ってる言葉を教えてあげるわ。『急がば回れ』!そんな修行はやめなさい」
あたしはヤムチャをあいつの部屋へと引き摺り戻した。ヤムチャは抗いながらも、最後にはおとなしく従った。当然よ!
バカは天才の言うことをきいときゃいいのよ。っていうか、こいつ本当にバカすぎ!
あたしはプーアルとウーロンにヤムチャのことを言付け(監視するようにね)、学院へと向かった。そして、昼頃になって気がついた。
…あいつをいたぶり忘れたことに。


その夜、ヤムチャはあたしの部屋にやってこなかった。…あたしが手薬煉ひいて待ってるの、わかったのかしら。
シャーレに水を満たしかけて、あたしは手を止めた。何だか嫌な予感がする。
ヤムチャの部屋に行ってみた。…いない。リビングにもキッチンにも、バスルームにもラバトリーにも内庭にも。プーアルの部屋にも、ウーロンの部屋にも。
確かにC.Cは広いけど、あいつの行動範囲なんてたかが知れてる。夜の街に繰り出したりなんて、あいつはしない(したら怒るわよ)。とすると、もうあそこしかない。
あたしは外に出た。そしてほとんど同時に駆け出した。
「あんた、ダメって言ったでしょ!」
あいつがいた。外庭の真ん中に。腕を天にかざして、がっしりと両足を踏み込んでいる。
一体何してるのかしら。見たことないポーズよね。って、そんなことどうでもいいわ。問題はその体勢よ!
「いいじゃないか少しくらい」
ゆっくりと振り向きながらヤムチャが言った。
「いいわけないでしょ!あんたは怪我人!怪我人は怪我人らしくしてなさい!」
怪我人の仕事は休むこと!そんなこともわからないの?
ヤムチャがあたしを睨みつけた。
「何よ、その目は」
あたしは睨み返した。そんな顔したってダメよ。あんたなんて全然怖くないわ。
ヤムチャはふと視線を外し、溜息を1つつくと囁くように言った。
「…なあ、もう放っといてくれないか」
「放っておけるわけないでしょ!」
放っておけるぐらいなら、初めから口を出したりしないわよ。
あんたは、自分の体をわからなさすぎなのよ。いくら素人だからって、わからないにも程があるわ。
あたしが言うと、ヤムチャは吐き捨てるように呟いた。
「…俺の体だ。どうしようと俺の勝手だ」
バッカじゃないの。
何、格好つけてんのよ。だいたい、そんな偉そうなこと言うくらいなら、もっと自重しなさいよ。
ヤムチャが視線を戻した。うんざりしたような、鬱陶しさを湛えた瞳で。
…何よ。
何で、あたしがそんな目で見られなくちゃいけないのよ。
あたしはあんたのことを思って言ってるのよ。なのになんで、そんな目で見られなくちゃいけないのよ。
「…最低ね!」
今のあんた、典型的なダメ患者よ!
あたしは地面に向かって吐き捨てた。そしてヤムチャを引っ叩いた。あいつは黙ってそれを受けた。それが余計に腹立たしかった。
殴られたまま顔を戻そうとしないあいつの横顔を、あたしは睨みつけた。
「バカ!!」
あたしは踵を返した。


シャーレに水を満たした。
「ヤムチャのバーカ!」
セシウムを放り込んだ。すぐにそれは狂ったように踊り始めた。
病人(あいつは怪我人だけど)は我侭になるっていうけど、本当だわ。最近のあいつってば、らしくないほど我侭なんだから。本当に、らしくないわ。
「荒れてるわね」
目の前に、いつの間にかディナがいた。
「別に」
「でも、名前呼んでたわよ」
マジ?
あたし、口に出して言ってた?げー、最低。
学院の研究室。昼休み。周囲には大勢の人間。
こんなところであいつの名前を出すなんて。プライベートを曝け出すもいいところだわ。
ふと気づくとディナが、あたしの顔を甞めるように見つめていた。
「そんなにいい男なわけ?」
はあ!?
「何言ってんの」
「だって、あんたみたいな女がそんなに執着するなんてさ」
みたいな女で悪かったわね。
あたしは突っぱねなかった。どうしてなのかわからないけど、ディナはあたしにそういうことをさせない。無意識のうちに従ってしまうようなところがどこかある。
やっぱり、先輩(年上って意味でよ。同期ではあるんだから)だからよね。席次ではあたしの方が上だけど。
でも、あいつのことでは別よ。
「全然いい男じゃないわよ」
そうよ、全然いい男じゃないわ。
バカで愚かで鈍くて女心がわかんなくて、従順さだけが取り柄の男。
なのに、最近のあいつってば、それさえもなくしてるのよね。おまけに、二言目には『痒い痒い』ってそればっかりで。
…そんなに痒いのかしら。

その日は、少し早めにC.Cへ戻った。明日、学会があるから。その準備のためよ。
ポーチに足を踏み入れかけたあたしの目に、外庭でトレーニングをするヤムチャの姿が入った。
いつもの筋力トレーニング。危ないことはしてないみたい。
…バカな男よね。
自分の体の管理1つできないでさ。そんなに修行がしたいのかしら。
あたしはヤムチャには声をかけず(だって、何も言うことなんかないし)、自分の部屋へと向かった。
そして、ドアに『Don't disturb』のプレートをかけた。




薄く開けた目にそれが入った。
窓辺を照らす光。閉め忘れた窓から覗く、燦々と輝く太陽…
ヤバイ!学会!
瞬時にデスクから身を起こした。
慌ててクローゼットを開けた。こんなことなら、スーツまで全部着込んでおけばよかった。
資料もまだ詰めてない。ああもうダメ、絶対間に合わない。
その時、それが目に入った。おずおずとドアを開けて、腰が引けたように佇む男。
「あ!ヤムチャ!」
助かった!
「お願い!そこの資料、アタッシェケースに入れて!」
言いながら着ている服を乱暴に脱ぎ捨てた。寝室?そんなとこいってる暇ないわ!
ヤムチャが慌てて目を逸らした。
「こっち見ないでよ!あたしこれから学会なの!わかったら、さっさと入れて!」
まったく、使えない男ね!
反応悪すぎ!これのどこがいい男なのよ。ディナも言ってくれるわよね。って、そんなこと考えてる場合じゃなかったわ。
タイをポケットに捻じ込んで、ヤムチャの手からアタッシェケースを引っ手繰った。おっと、忘れるところだった。
未だ呆然としているヤムチャに、あたしは顎でデスクの上を指し示した。
「あれあげる!わかんなかったら父さんにでも訊いて!」
エアジェットのカプセルを引っ掴んだ。ジェットで乗りつけるなんて非常識だけど、背に腹は変えられないわ。
「絶対使えるから!じゃあね!!」
あたしはそれだけ言うと、一目散に部屋を飛び出した。
あたしの発表は一番手なのよ。冗談じゃないわよ、まったく!

「はあー…」
学会会場の自分の席に戻り座って、あたしは大きく息を吐いた。
ああ、疲れた。本っ当に疲れたわ。
発表は何とか間に合った。これで教授の面目は潰さないですんだ。…あたしの面目は丸潰れだけど。
エアジェットを正面玄関に下ろした時の、係員のあの顔。伝説になるわね、きっと。
ああ、明日から学院行きたくない。何言われるかわかったもんじゃないわ。いえ、わかるわ。わかるからこそ嫌なのよ。
これであたしは完璧に、『伝説の首席』ね。
…もう、最低。

C.Cに着いた瞬間、ヤムチャの姿が目に入った。
ポーチ前でトレーニングをしていたからだ。あたしのあげたギプスを着けて。さっそくね。そうこなくっちゃね。
あたしは我が身を犠牲にして、あれを作りあげたんだから。これで使ってなかったら怒るわよ。
あたしがポーチに一歩を踏み入れると、ヤムチャが片手を上げた。
「よう」
「ハイ」
あたしは普通に答えた。
ケンカ?…もうそんなのどうでもいいわ。
そんな気力残ってないわよ。…ああ、学院行きたくない。
それもこれも、ヤムチャのせいよ。みんなこいつのせいなのよ。
もうめいっぱいいびってやるわ。…明日から。一晩ぐっすり眠ったらね。

自分の部屋に辿り着くなり、あたしはデスク横のスツールにどっかりと座り込んだ。
「はあー…」
終わった…いろいろな意味で。
再び溜息をつくあたしを、ヤムチャはおもしろそうな目で眺めていた。
何がそんなに楽しいのよ。みんなあんたのせいなのに。
でも、それを口に出す気力は、あたしにはなかった。
「…で、どう?調子は」
どんなに疲れていようとも、これだけは確かめておかなくちゃね、科学者としては。っていうか、いい返事じゃなかったら怒るわよ。
強度も軽度も伸縮性も衝撃の吸収性も、既製のギプスとは段違いのはずだし。っていうか完璧に武道家仕様よ。一般人には向かないわ。こんな社会貢献の欠片もないものを開発する科学者なんてあたしくらいのものよ。感謝してほしいわね。
それに、痒みも少しは軽減されてるはずだし。…まあ、本当に少しだけど。最初はそこを何とかしてあげようと思ったんだけど。やっぱりいくらあたしでも、感覚を変えることまでは無理だったわ。…天才にも不可能ってあるのね。
でもこれで、修行するぶんにはかなり楽になったはず…
「ああ。なかなか快適だよ。軽いし、衝撃も伝わらないし、違和感も全然ないし。ただなあ…」
ヤムチャの返事は、あたしを満足させるものだった。
「やっぱり痒いんだよ」
――途中までは。

…呆れた。

「もういい加減、痒みのことは忘れなさいよ」
せっかく作ってやったのに。今の言葉で台無しだわ。
あたしはヤムチャを睨みつけた。あいつはさして堪えた様子も見せずに、その口を尖らせた。
「おまえは痒くなったことがないから、そんなことが言えるんだ」
「知らないわよ、そんなこと」
知りたくもないし。だいたい、何で作ってやったあたしが、そんな風に言われなくちゃいけないわけ。
さきほどまでのにやけ顔はどこへやら、いつしかヤムチャはすっかり仏頂面になっていた。ギプスをあげる前と変わらない。
「消費者のニーズを知ることが開発の第一歩。おまえ、いつもそう言ってるよな」
バカバカしいったら、ありゃしない。
らしくなく正論ぶっちゃってさ。八つ当たりもいいところよね。
あたしはシャーレを取り出した。そしてあいつに背を向け言った。
「もう出てっ…」
「だから、今からそれをわからせてやる」
声が届くと同時だった。あたしの目に映る世界が、回転した。
気づいた時には床にいた。馬乗りになったヤムチャが、片手であたしの両手を拘束した。持ち上げられた腕の根元に、その感覚が走った。
「あっははははははは!!」
意志の力ではどうにもならない笑いの渦に、あたしは放り込まれた。
「…ちょっと!やめてよ!!」
乱れる息の中ようやく絞りだしたあたしの声は、あいつの笑顔に当たって消えた。ヤムチャはまるでいたずらっこのように、あたしをくすぐり続けた。
「痒いのとくすぐったいのは別でしょ!!…あっはははは!!」
あたしは笑っていた。心の中では怒りながら。ヤムチャも笑っていた。それはもう無邪気な笑顔で。
…この、ガキ!
くすぐる手の動きが緩やかになってきた。白い歯を見せ子どものように笑う大人の姿に、あたしは当然の言葉を投げつけた。
「本当にバカなんだから!」
まったく、何考えてんの。
さらに罵倒しようとしたあたしの唇を、それがなぞった。いつの間にか脇から外れていたあいつの指が。
目を瞠るあたしの、両手の拘束が解かれた。
そして今度は、唇を拘束された。

息をすることを許されて、あたしはあたしに重なる体の持ち主に向かって呟いた。
「…あんた、怪我人のくせして何してんのよ」
「怪我人だってこういうことはできるんだよ」
そんなことわかってるわよ。あたしが訊きたいのは…
疑惑を湛えたあたしの瞳に、はにかんだ笑顔が映った。
「サンキュー」
あたしは思わず問い返した。
「痒いんじゃなかったの?」
「ああ、痒いよ」
苦々しげにヤムチャは言った。
「だから、誤魔化してるんだよ」
そして再びあたしを拘束した。




次の日から、ヤムチャはあたしの部屋に来なくなった。
しょうがないから、あたしが行く。夜。あいつの修行が終わった頃合を見計らって。個人的な研究の手を休めて。
ひどい扱いよね。女心がわかってない以前の問題だわ。もっと感謝の心を持てっつーの。
もうあいつの機嫌は悪くない。でも、時々痒がってる。それはそれはものすごく。
そして、そういう時はまた誤魔化しにかかる。

…本当にひどい扱いだわ。
web拍手 by FC2
inserted by FC2 system