知らない男
運命の相手?そんなものいないわよ。
あたしは運命を信じない。
だって、そんなものがあったら、人間何のためにがんばるのよ。
何があっても、あたしは運命論には逃げない。そう決めてるのよ。

ヤムチャに初めて会った時、あたしは思った。
何よ、格好いいじゃない。
それだけよ。他には何も感じなかったわ。
こんなのが恋人だったらいいな、なんてことも思わなかった。

でも今、ヤムチャはあたしの隣にいる。何なのかしらね、これは。

あたしはハイスクールがつまらなかった。だから、ドラゴンボールを探しに行った。
恋人がほしいという願いは嘘じゃない。あれは本当のあたしの気持ちよ。
でも根底は鬱屈ね。あたしはそれを解消したかった。

いつの間にかあたしたちは行動を共にしていた。恐ろしいほど自然な流れで。
ヤムチャが孫くんと戦った、ということは後で聞いたわ。まったくヤムチャも怖いもの知らずよね。
あたしが眠っている間に起こったことと、あたしが自分の目で見た事実をつきあわせた。…繋がらない。
やっぱりおかしいわよね。どうしていつの間にか一緒に行動していたのかしら。

偶然?そうね、そうかもね。

あたしはヤムチャたちをC.Cに連れて帰った。なんとなく、その時の流れで。
うちには部屋があり余っていたし、父さんがしょっちゅう捨て動物を拾ってきていたから、あたしも同じようなことをすることに、何の違和感も感じなかったわ。
…動物と同じレベルで考えていたこと、あいつが知ったら怒るかもね。
ドラゴンボール探しも夏休みも終わってしまって、あたしはまた元の生活に戻った。ハイスクールとC.Cの日々。
でもあたしを取り巻く雰囲気は、夏休み前のそれとは違っていた。
ヤムチャがいたこともあるけれど、それだけじゃない。あいつらには絶対に言わないけれど、プーアルとウーロン。あいつらの存在も大きいわ。
ヤムチャとあいつらは、ドラゴンボール探しの記憶の象徴よ。
そう、あたしはあの冒険の空気を持って帰りたかった。だから、みんなを連れてきたのよ。


あの日、あたしはいつものようにハイスクールへ行った。行きたくなくとも行かなきゃいけない、それがその時のあたしのとってのスクールだった。早く卒業したい、いつもそう思っていたわ。
そして、その日また思ったの。

ところでね、あたし結構モテるのよ。だって、顔はいいし頭はいいしスタイルは抜群だし、そのうえC.Cの令嬢よ。これでモテないわけないでしょ。じゃあ何で、BFがいなかったのかって?

それは、そいつらが、しょうもないやつらばかりだったからよ!!

本当にしょうもないやつらばかりよ。そいつもそうだったわ。
あたしがそいつの誘いを蹴って、翌日ハイスクールへ行ってみたら…行ってみたら。
ダメね。言いたくない。これ以上は言いたくないわ。
逆恨みなんて慣れてたわ。言い返すことだってできたわよ。でもそれにしたって、限度ってものがあるじゃない。
怒りとか悔しさとか、そんなのじゃない。やりきれなさに、あたしは襲われた。

どうして、あたしがこんなやつを相手にしなくちゃいけないの。
行きたくもない場所に無理矢理行って、どうしてこんな目に合わなきゃならないのよ。
目的があれば我慢できるわ。でもハイスクールにそれはなかった。
やってらんないわよね。

あたしはC.Cに帰った。ヤムチャが庭でトレーニングをしていた。あたしの顔を見つけると手を振って、それから怪訝な顔をした。
ええ、そうよ。あたしはおかしかったわ。明らかにおかしかった。
「ブルマ?どうかしたのか?」
そう訊くヤムチャにあたしは駆け寄った。
「ヤムチャ!ちょっと聞いてよ…」
言いかけて、あたしは口を噤んだ。
どう考えても、ヤムチャに言うことじゃないわけよ。そうでしょ?
ヤムチャには関係ない。というより関係させちゃいけないことだわ。
あたしはあいつに気なんか遣ってなかったけど、それとは話が違うわ。
「…何でもない」
あたしはやっとの思いでそう呟くと、自分の部屋へと向かった。他にいくところがなかったのよ。
あたしは虚しくなった。やりきれなさと虚しさって、どうしてこんなに仲がいいのかしら。
すぐにヤムチャが部屋にやってきた。追い返す理由はあたしにはなかったわ。招き入れる理由もなかったけど。
でも、入れた。どうしてかしらね。
部屋に散らばるメカやパーツを、その時のあたしは見たくなかった。なんていうの?現実を感じさせる物を見たくない気分。あたしの部屋は本当に現実の塊よ。だって、それが科学だもの。それまではそれでいいと思っていたけど。
だから、寝室へ行った。言っとくけど、他意はないわよ。当たり前でしょ。
あたしの部屋の中で、せめて現実が薄い場所はそこしかなかったのよ。
ヤムチャはベッドに腰を下ろした。あたしはベッドに飛び込んだ。
「あーあ。もうやだ!」
あたしは先ほどまでの虚しさから一転、叫びだしたい気分になっていた。きっとヤムチャがいたからね。うまく言えないけれど、ヤムチャが栓を外した。…伝わらないかしら。ヤムチャに事を説明する気は毛頭なかったけれど、気持ちを抑える必要もない。そう思ったの。
「早くハイスクール終わらないかな。そうしたら一日中研究をして、もうあんなやつらと付き合わなくて済むのに!」
結論だけを口にした。理解される必要はないの。ただ、外に出したかったの。…外に出してもいい、そう思ったの。
ヤムチャは黙って座っていた。何かをしようとする素振りも、訊こうとする気配もなかった。ただ、ヤムチャはそこにいた。
それがあたしにはありがたかった。
あたしが心の重荷を一時横に置いて(消えたわけじゃないわ。それは決して消えないのよ)1つ息を吐くと、ヤムチャが肩を抱いてくれた。あたしはその行動とタイミングの絶妙さに、目を瞠った。
このタイミングじゃなければ、あたしは決して黙って抱かれはしなかった。わかるかしら、この感覚が。
何よ。あんた、いつもはあんなに鈍いくせに。どうしちゃったの?

偶然?そうね、そうかもね。

あたしたちはしばらくそのままにしていた。ただじっと。そのまま。
恋人たちが身を寄せ合うのとも違う。でも友愛だけじゃない。不思議な共有感。

それにあたしは救われたの。




あたしは運命を信じない。でも、偶然は信じてる。
偶然は大切よ。
それは重なり合って、いつか奇跡を起こすのよ。
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