同価値の男
あたしには夢がある。1つ、どうしても叶えたい夢が。
叶えるという言い方は妥当じゃないわね。やってみたい、というのが正確かな。

「夢?」
ヤムチャは不思議そうに訊ねた。
「そうよ。それがあったから、あたしは科学の道に入ったのよ」
「ブリーフ博士の影響じゃないのか」
「もちろん、それもあるけど」
否定はしないわ。でも、人間ってそんな簡単なものじゃないわよ。
「どうせ男とかじゃねえの」
ウーロンは相変わらず失礼なことを言う。
「違うわよ」
あたしは鼻で笑った。

夢は大切よ。人間にはこれがあるから、科学が発達したのよ。大空への憧れが飛行技術を生み出し、生への執着が医学を発展させ、富への渇望が錬金術を――まああれはガセだけど。
そしてあたしの領分は、知識を動員して新たな試みをすること。可能性を形にすることよ。

今がそのタイミングかなって思ったの。科学者の勘ね。
ドラゴンボールを探しに出た時、あたしには願いが2つあった。
1つはイチゴ。もう1つは…
…ま、一応、叶ったわけだし。
相手は生身の人間だもの、不満があっても仕方ないわよね。
その点、イチゴは違うわ。イチゴに欠点はない。イチゴは裏切らないわ。

だから、あたしは作った。その名も『ミクロバンド』。持ち主の体を1/10スケールまで縮小するのよ。すごいでしょ!
巨大イチゴの栽培でもすると思った?…それも捨て難いけど。
あたしのフィールドは科学の中でも化学よりだから。イチゴを大きくするより、人間を小さくするほうが手っ取り早いわ。
…同期の仲間からは時々異常だって言われるけど。単なるフィールドの違いよね。


ストロベリーショートケーキ。イチゴタルト。マキシムのナポレオンパイ。そして何をおいてもフレッシュイチゴ!
テーブルの上に並べられた、あたしの夢。
本当はフレッシュイチゴだけでもいいんだけど。演出よ、演出。
だって長年の夢だったんだもの。この気持ちわかるでしょ?

ミクロバンドのスイッチを入れる瞬間は、本当に心が躍ったわ。

あたしは体を小さくすると、真っ先にフレッシュイチゴの入った籠の元へと駆け寄った。
ほとんど山のように見えるそれによじ登ると、一番大きなイチゴを探し出した。
抱きすくめて山を下りる。イェーイ!あたしのイチゴ!

あたしがそれに齧り付く様を、ヤムチャは何だか変な顔をして見ていたけど。どうせ男にはわからないのよ。こういうのは女の世界よね!
イチゴはおいしかった。本当においしかったわ。達成感も相まって、今までで一番おいしく感じた。
至福の時間…

ところで、イチゴタルトって食べにくいわね。今まで気がつかなかったけど。
上のイチゴが、取りにくいのよね。コーティングされた飴に絡まってて。
おいしいけど、問題だわ。特に今のあたしにとっては。ええい、このこの。

タルトを足蹴にイチゴだけに手をかけて、何とかそれをもぎ取ろうとあたしが格闘していたら、ヤムチャが1粒取ってくれた。ご丁寧に千切ってまでくれちゃって。何よ、気が利くじゃない。
「サンキュー」
ヤムチャのフォークで千切られたそれを、あたしは口に入れた。

これも「食べさせてもらった」と言うのかしら。
…言わないか。


でも、両方揃えた気分は悪くないわ。
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