2人の女
「ねえ、ヤムチャ」
甘い声が俺を誘う。
「わたし、あなたのこと…」
俺は陥落寸前だった。
「ちょっと!あんた、何してんのよ!!」
ベッドの上でブルマに組み敷かれる俺を、ブルマが救出した。

「まったく、目を離すとすぐヤムチャのところへ行くんだから!」
ブルマはコピーロボットを時々――どうしても予定が消化できない時、本当に時々――使用していた。背に腹は変えられない、というところか。
このコピーロボットは、姿形・能力・記憶いずれをも完全に複製するが、1つ性格だけがまったく正反対に再製されるということが、今では証明されていた。
つまりコピーブルマは、かわいらしくおとなしやかで、そのいでたちは清楚、言葉優しく、素振りはしとやか、常に相手のことを考え、また自身の感情も率直に表す素直さで、時には妖艶にもなれるという、まるで天使のような性格だったのだ。
コピーの性格を知るにつれ、心に闇が広がっていくのを感じる俺ではあったが、反対に1つ嬉しいこともあった。
「性格以外は、完全におまえなんだよな」
「そのはずよ」
「で、感情は記憶の一部であると」
「あたしはそう捉えているわ」
性格以外を完全に複製されたブルマが、俺のところへちょくちょくやってくる。と、いうことは…
俺はブルマの顔をまじまじと見つめた。
おまえ、結構俺のこと好きだったんだな。
日頃虐げられている俺にとって、この事実は希望となった。

本物にいたぶられては、コピーに心癒される。そんな日々を、俺は送った。
俺も性格が歪んできているな。これは明らかに誰かの影響だ。


「ヤムチャ」
俺を呼んでいる。ブルマだ。
「ヤームーチャっ」
問題はどちらのブルマかということだ。
「ヤムチャってばあ」
うーむ。難しいなこれは。

俺はベッドの中で目を開けた。
2人いた。2人は同時に俺の頬を突ついていた。
「へっへ〜。どっちがあたしかわかる?」
わからいでか、そんなもん。
俺はそう言おうとして、目を丸くした。
2人の瞳に浮かぶ表情は同じだった。いたずらっぽい光を湛えて、俺の両頬を突ついている。
通常かわいい方の瞳には、優しさ一辺倒の表情が見えるはずなのに…
2人のブルマは完全にシンクロして、こう言った。
「じゃーん!!作りました、完全版!!」
は?
「今度こそ、正真正銘のあたしよ!!」
2人のブルマは腰に手を当て、俺を見下ろした。この態度は…
「どういうことだ?」
「だからできたのよ。完全版が。姿形も能力も、記憶も性格も、好みも行動パターンもすべて完璧よ!!」
な…何だって!?


それは本当にブルマだった。立てば研究、座ればイチゴ、歩く姿は居丈高。まったく同じ動作、まったく同じタイミング、そして常に台詞がシンクロされる。
「すっごく調子いいわよ。やっぱあたしって最高よね!」
その「最高」は一体どこにかかっているのか。俺はこれほど見事に自己を肯定する台詞を、今まで聞いたことがない(ちなみに、もちろんこの台詞もシンクロしている)。
2人のブルマは阿吽の呼吸で事に当った。

ブルマが実験している間に、もう1人のブルマがそれを纏める。
ブルマが論文を書いている間に、もう1人のブルマが資料を作る。
ブルマが基幹を組み立てている間に…

俺は具合が悪くなってきた。
研究している時は、まだいい。別々の作業をしているからな。問題はそれ以外の時だ。
ブルマはなぜか用のない時もコピーをそのままにしていて、それは本物と共に、始終俺の周りをうろつくのだ。
本人は褒美などと言っているが、ロボットに褒美を与えることに一体何の意味があるのか、俺にはわからない。
だいたい、なぜ俺にそのお鉢が回ってくるのか。
…性だからか。

2人のブルマが同時に俺の腕をとる。
2人のブルマが同時に俺を引っ張る。
2人のブルマが同時に俺を罵倒する。
2人のブルマが…

唯一区別がつけられるのは、食事時だ。コピーの方は、飲み物を飲むことはできるが、固形物は食べられないらしい。
何でも、純度の高い水分は分解できるが、消化機能はないとのことだ。リアリティを追求した結果そうなったと言っていた。俺には何のことだかわからないが。


その夜も、2人はシンクロしていた。そして2人して俺の部屋にいた。
「あのさ、そろそろ寝たいんだけど…」
もう出てってくれないか。そう俺が言おうとした刹那。
「いいわよ。3人で寝ましょ」
は!?
「ご褒美あげなくっちゃね」
待て。待て待て待て待て。
それはつまりその…あれか!?俺に2人を相手にしろと…そういうことか!?
俺は目を覆った。
それはおまえにとっては褒美かもしれないが、俺にとっては罰ゲームだ。
「勘弁してくれ…」
「何よ、その言い方。あんた嬉しくないの!?」
「おまえは1人で充分だ」
俺は思わず本音を吐いた。

どうせオプションをつけるなら、かわいい方にしてくれ…
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