二人目の女
ブルマと別れて一年後、二人目の彼女ができた。
一年って、長いかな。それとも短いか?俺自身としては、そんなもんかな、って思う。ブルマとは十年以上も付き合ったんだ、そう簡単に次に行く気にはなれなくて当然だろ?でも、永遠に一人でいようと思うほど、手痛い失恋だったわけじゃない。っていうかさ、そんなに手痛くはなかったんだ。そりゃ別れること自体は悲しかったけど、意外と引き摺らなかった。きっと、ブルマの態度がそんなに変わらなかったからだろう。恋人じゃなくなったけど、それ以外の部分ではあまり変わらなかった。服装とか髪型とかにしつこく口出ししてくるやつがいなくなってちょっと淋しいと思わないこともなかったけど、そんな感情にいつまでも囚われていられるほど、俺は暇じゃなかった。そう、俺にはやることがあった。武道だ。修行だ。それに、プーアルもいるしな。
だから、塞ぎ込んだりはしなかった。修行に打ち込み、プーアルと新たな場所で生活した。そしたら彼女ができたんだ。
え?はしょり過ぎ?でも、本当にそんな感じなんだよ。普通に生活してたら彼女ができたんだ。そう、当然と言えば当然だけど、修行してた時にじゃなくて、日常の場面の方で彼女ができた。そうだなあ、一応説明しとこうか。


ある日俺は、街に買い物に出た。食料品とか衣料品とかを買いに。そういうものを一から十まで自分で用意しなくちゃならなくなったのが、ブルマと別れたことによる一番大きな変化だな。といっても自分のことなんだから文句があろうはずはないし、食料や日用雑貨に関してはプーアルがすっかり取り仕切っているので、俺は自分の服を時々買い足すくらいでよかった。その時も、プーアルはある大きなスーパーマーケットに、俺はある洋服屋にと、それぞれ足を運んだ。
未だ馴染んでいないその街の、馴染みのある店。それは、かつて西の都でブルマに連れて行かれたブランドショップだった。ブランドと言ってもそう高価ではなく、ほどほどに品もよくセンスも悪くない店だ。10年以上も付き合わされた結果、すっかり肌に馴染むものとなった。今じゃ完全に、俺自身の趣味だな。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「ああ、秋物をいくつか探しに来たんだ。動きやすさ重視で、使い回しの利くシンプルな物がいいんだけど」
慣れてる余裕で、俺はすんなり答えた。女の店員だった。ブルマがいたら、こうはいかないところだ。
「トップスですか?」
「うん。…あ、ボトムも一つくらいあってもいいな」
「こちらのオータムシリーズが、伸縮性も高く、デザインもカラーもヤムチャさんの好みに合うと思いますよ」
「へえ、本当だ、なかなかいいな。…あれ、どうして俺の名前知ってるの?」
ごく自然に言葉を返してしまった後で、俺は気づいた。俺はこのブランドに慣れているが、あっちは俺のことを知らないはずだ。この街のこのショップに来たのはこれが二回目…いや、三回目だったかな。もちろん知り合いでもないし…
「前回ご購入された際に、会員カードをお作りしましたので。前回は夏向けのクリーム色のスーツをお買いになりましたよね」
「よく覚えてるね。俺の方は全然覚えてなかったのに」
「仕事ですから。と言いたいところですけど、本当は違うんです。覚えてたんじゃなくて、忘れられなかったんです」
「え?どういうこと?」
「ここじゃ何ですから、一度外でお会いしませんか?もしよろしければ、ですけど…」


…とまあ、そういうわけだ。途中からはしょったけど、もういいよな。さすがに後はわかるだろ。
彼女の名前はハニービィ。五つ年下。ブランドショップの正社員。髪の毛は栗色、瞳の色は茶色。緩いウェーブのかかった髪をさりげなく巻き上げている。かわいい癒し系といった感じ。ブルマとは正反対だな。動物や自然が好きで、料理が得意。これもブルマとは正反対――そして今日、初めて俺のうちに来ている。
彼女の仕事が終わる時間に待ち合わせて、二人で一緒に買い物をして、プーアルと一緒に夕食を作って、みんなで食べた。その後プーアルは気を利かせて、三畳ほどの物置部屋に引っ込んだ(すまん、プーアル)。そのうちもっと広いハウス買わなきゃダメだな――そう思いながら、俺は彼女とベッドに入った。
そう、なんか、いつの間にかそういう雰囲気になってたんだ。誓って言うが、俺は強引なことはしてないぞ。露骨に欲望を見せたりもしてない。そりゃ、そういうことしたくないわけはないけど、それなりに考えるところはあった。
…はず、なんだけど…………
「胸あんまりないんだな。かわいい」
でも、気づけば俺は彼女の胸に口づけながら、そんなことを言っていた。…決して比較していたわけじゃない。率直な感想を述べたまでだ。
大きくはなく、かといって小さくもない胸が、何とも心地よかった。ちょっと寸胴気味のウェストも、新鮮に見えた。初めてとは言ってなかったけど、どこか初々しい腰の動き。それとも、好いてる者と好かれてる者の違いかな。
そう、彼女は俺のことを好きだと言った。俺はまだ言っていない。まだわからないからだ。とりあえず何はともあれ彼女のことを知るために、何度か付き合ってみようかってことになった。俺の部屋を見たいと言うから連れてきた。手料理を食べさせてもらう、気取らないデートのはずだった。それなのに…
「あぁ、あぁんっ」
「いいかい?いくよ?」
「あっ。あっ、あんっ…」
それなのに…………


――終わった後、俺は思った。
…なんか俺、手練れになってる?
俺自身は普通にしてたつもりなんだけど…なんかすっかりリードしてなかったか?
いやあ完全にリードしてたよな。実にスムーズに事が運んだっていうか…………年下だからか?それとも、他の女ってみんなこんなもんなの?そりゃブルマが手のかかるやつだってことはわかってたけど、こんなに違うもんなのか?…はっきり言って、すっげー楽だったぞ。ひさしぶりだからどうかな…とか、ブルマとしかしたことないんだよなあとか、まるで心配する必要なかった。あ、楽だったからつまんないってことはないぞ。ちゃんと気持ちよかったし、かわいいって思った。うん、すごくかわいかったよな。
「ヤムチャさん…」
「うん、何?」
「あたしのこと、好きですか?」
「好きだよ」
やがて囁かれた彼女の言葉に、俺はすんなり応えた。
この子のこと、好きだからさ。そりゃブルマに対するほど、深く複雑な好きじゃないけど、ブルマとは十何年だろ?この子とはまだ二週間だもんな。これからだよ、これから。


俺の人生はこれから。もちろん、これまでだって充実してたけど、これからもっと充実する。いや、させるんだ。
新しい彼女と。新しい環境で。
古い絆だって大切にしながら。
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