それからの女
ほとんどドアが開くと同時だった。
「ヤムチャ!ちょっと、聞いてよ!!」
「おまえ…」
いきなりそれかよ。
俺、今来たばかりなんだけど。1年ぶりに会ったばかりなんだけど。
C.C2階のブルマの自室。約1年ぶりに訪れたそこで、俺はブルマと顔を合わせた。
修行が一区切りしたからとか、西の都でゲーム(野球のな)があったからとか、いろいろ理由はあるけど、言ってみればまあ、『なんとなく』だ。
俺は勝手に腰を下ろした。ブルマはそれまで着ていた白衣を脱ぎ捨て、乱暴に何かの器具を片付けると、再び怒鳴りだした。
「ベジータったらひどいのよ!!」
「おまえらまたケンカ…」
言いかけて俺は気づいた、この台詞どこかで…
そうだ、ウーロンだ。ウーロンがよくこの台詞を言っていた。そうか、こういう心境だったのか。
思わず呆けかけた俺を、ブルマが睨みつけた。
「ちょっと!何よ、その言い方」
「ああ、はいはい。…で?」
俺が軽く促すと、ブルマは勢いよく喋り出した。まるで機関銃のごとく。俺はそれを聞いていた。話半分で。
そう、こいつのこの手の話は、話半分に聞いておくのがちょうどいい。俺はそれを、身をもって知っていた。
「…というわけよ。ひどいでしょ」
「そうだな。そいつはひどいなあ」
一通りブルマの話を聞いた後で、俺は一も二もなく頷いた。…習性で。
こいつに逆らうなんて、考えられない。それだけは、今も昔も変わらない。
だが、その後にこう加えることができるのが、昔とは少し違うところだ。
「とはいえおまえもだな、たまには少し折れてだな…」
そう口にはしながらも、俺は知っていた。こいつが決してそうはしないだろうことを。そしてそれはこれからも、決して変わりはしないだろうことを。
だって、俺がそうだったんだからな。10年以上も付き合った俺でさえ、そうだった。そこへいくとベジータなんか、数年だろ。まだまだだよな。
俺は少しおもしろくなってきた。ベジータのこれからの人生が見ものだな。
「ところであんた、何しに来たのよ」
「おまえ…」
おせえよ。
今頃それかよ。普通そういうことは、一番最初に訊くもんだろ。
そうは思ったが口にはせず、俺はおもむろにその袋をテーブルの上に転がした。
「プレゼントだ」
「プレゼント?」
ブルマは怪訝そうな顔をしながらも、躊躇することなくそれを手に取った。
そう、こいつはそういうやつだ。過去のことなんて全然気にしやしないんだ。
まったく、こいつは友人としては実に付き合いやすいやつだ。俺は自分がその立場になるまで、そのことに気づかなかった。
本当に、楽だ。ひょっとしなくても、こいつとは友人として付き合っていくのが一番いいんじゃないか?…ベジータのやつ、貧乏くじ引いたな。
「あんたがそんなことするなんて、一体どういう風の…わっ、レアメタル!?」
「俺のファン(野球選手としての俺のな)の子に地質学者の娘ってのがいてな。それで貰った」
レアメタルってことしか俺は知らないけど。いや、一応説明はされたんだけど、…忘れた。そんなものいちいち覚えていられるか。
とにかく、こいつはこれが好きなんだ。そして操作できるんだ。その事実だけで充分だ。俺にはな。
そう、俺には。…後のことは知らん。
俺は思い出していた。あの頃のことを。こいつと付き合っていた頃のことを。
レアメタルを採取したこと、あったんだよな。それでその後どうなったかというと…
その時、ベジータがどんな顔をするのか見ものだな。いやまったく、見られないのが残念だ。
…俺も性格悪くなったもんだな。
もちろんこれは誰かの影響だ。それで今、そのお返しをしているというわけさ。

俺はゆっくりとコーヒーを啜った。ブルマ言うところの、甘すぎるコーヒーを。それはあの頃とは違う味がした。

ブルマが白衣を身に着けた。さっそく操作する気だな。相変わらずメカキチ…いや、レアメタルはメカじゃないか。何て言えばいいんだろうな。まあ、どうでもいいことだけど。
俺は腰を上げた。デスクに向き合うブルマの顔は見ずに、後ろ手を振った。
「また来るよ」
ベジータがいない時にな。

だって、こんな男が出入りしてるなんて、絶対おもしろくないだろうからな。
ベジータじゃなくっても、男だったら誰だってそうさ。


まったく、見ものだよな。
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