亢進の女(後編)
エアクラフトの窓の横を、小さな雲が流れていく。遠くでは塊が上へ上へと被さるように折り重なって、一つの大きな雲を作り上げている。
ふいにエアコンが勢いよく風を吹き出し始めた。ほとんど同時に操縦席でブルマが呟いた。
「あっついわね、ここ。すでに夏みたい」
「常夏地帯だからな。季節による寒暖差がなくて修行もはかどるというものだ」
言いながら機内に目を戻すと、操縦席の上部からブルマが髪を撫でつけているのが見えた。
「ちょっとウーロン、計器見てて。オートパイロットにしておくから」
「あいよ」
緩慢に答えながら、ウーロンが腰を上げた。ブルマは素早く立ち上がると後部座席の俺の隣へとやってきて、無造作に髪を結い始めた。あまりにも普段着的なその行動に苦笑しつつ窓の外に視線をやると、ブルマが咎めるように呟いた。
「あんた、何してんの」
「…ああ、雲が出てきたなと思って」
「のんきねー」
…それはおまえの方だろ。
言いかけて、俺はやめた。呆れたように口を尖らせるブルマの顔を窓の表面に見ながら、俺はブルマの言葉と行動を肯定した。
「ピリピリしなきゃならない理由がどこにある?」
そうだな、いつもと同じままでいい。引き止められたりするよりは、ずっと楽なことだ。
「そうじゃなくて。あたしが言いたいのは…」
窓の中のブルマが眉を寄せた。本人に視線を走らせると、ブルマは口を噤んで、一つに括った髪にリボンを結びつけた。その数瞬の間に、ウーロンが割り込んできた。
「おい、お二人さん。それくらいにしとけよ。ブルマ、そろそろ着陸地点が見えるぞ」
操縦席から飛んできたウーロンの声には、ケンカを戒める意図がありありと聞き取れた。…いい加減失礼なやつだよな、こいつも。俺たちはただ話をしていただけだというのに。
でもまあ、このウーロンの白け声ともしばらくはお別れか…
「ああ、はいはい」
俺の感慨を吹き飛ばすように、ブルマが無造作に返事をした。そして、さっさと操縦席へ戻っていった。言いかけた言葉を残したまま。
「5分後に着陸ね。全員、シートベルトを締めて」
きびきびとした声が機内に響いた。同時に、座席横のシートベルトリマインダーがオンになった。シートベルトを装着しながら、俺は思った。
…楽だけど、少し執着しなさ過ぎだよな。

エアクラフトが着陸しそのキャノピーが開いた瞬間、涼やかな風が頬を弄った。
「へえ…いい風が吹いてるのね」
ポニーテールを揺らしながらブルマが言った。その声に内心で同意して、俺は頭上を仰ぎ見た。
変幻自在に形を変える厚い雲。自然に透きとおる薄青色の空。空気の色も違うようだ。
ウーロンとプーアルは、すでにエアクラフトを降りていた。操縦桿にロックをかけているブルマになんとはなしに声をかけようとしていた俺は、またもやウーロンにその行為を遮られた。
「おーい。誰もいないみたいだぞー」
見るとウーロンが、カメハウスのドアを前に首を捻ってこちらを見ていた。
「ええ?そんなはずは…」
眉を寄せた俺をよそに、ブルマがタラップを下り始めた。手摺代わりに差し出した俺の手を取りながら、ブルマはさして嫌味のない口調で、しかしなかなか心傷つくことを言った。
「あんた、歓迎されてないんじゃないの?」
俺はまったく愕然として、過去の記憶を反芻した。確かに俺が弟子入りを希望した時、武天老師様はなかなか首を縦に振ってくださらなかった。でもそれは武天老師様の弟子取りの姿勢であって、許された今となっては俺を受け入れてくださっているものと思っていたのに。それが、こんな回りくどい嫌がらせをされるほど嫌われてしまっていたとは…俺が強引過ぎたのだろうか?
「冗談よ」
自己嫌悪の嵐に巻き込まれかけたその時、ブルマがすっぱりと俺の思考を分断した。俺は再び愕然とした。
…冗談。冗談だって?ブルマおまえ、俺の何が気に入らなくてそんな嫌がらせをするんだ。…おまえ、本当に俺のこと好きなのか?
気づいた時には、ブルマはエアクラフトを降りきっていた。俺が地に足を着けた時にはすでに、カメハウスのドアへ手をかけていた。再び複雑な思いに囚われながら後を追った俺の耳に、低く鋭い女性の声が飛び込んできた。
「hands up!」
ブルマが動きを止めた。その足元でウーロンが怯えたように体を震わせた。プーアルが、ウーロンにしがみつくという珍しい仕種を見せた。
訝りながらブルマの後ろから顔を出すと、開け放たれたドアの向こうで、ランチさんが不敵な笑みを浮かべていた。
「だから金を出せと言ってるんだ。まさか、タダでここの敷居を跨げると思っていたわけじゃねえだろうな?」
俺は三度愕然とした。そんな話は聞いていない。まさか武天老師様が弟子に持参金を求めるなどとは。しかし、ブルマは富豪の娘だ。俺からじゃなくとも取れると踏んだと考えられないこともない。実際、彼女の右手には黒光りするリボルバー…
ブルマの顔はすっかり青ざめていた。その鼻先に突きつけられた銃口を見て、俺も肝を冷やした。
ヤバイ。完全に捉えられている。これでは彼女を押さえる前に、ブルマがやられてしまう。ああ俺、もっと鍛えておくんだった。ハイスクールなんかサボりきって、トレーニングしておくべきだった…!
「なんてな」
後悔の海に沈み込みかけたその時、ランチさんが新たな笑みを漏らした。銃口をブルマから外して、銃身をくるくると回した。出てもいない硝煙を吹き消して、白い歯を見せてさらに笑った。
「冗談だよ。ビビったか?」
俺はまったく愕然として、一連の流れを振り返った。ランチさんの持つリボルバーがもはや誰も狙っていないとわかっても、額の汗は引かなかった。…全然、冗談に聞こえませんでした。
「もう。悪い冗談はなしにしてよ…」
ブルマが深い息を吐いた。自分のことを棚に上げたこの台詞に、俺は強く同意した。
疲れるな。ハイスクールの女の子とはまた違った意味で、ランチさんは疲れるな。なんてったって、ブルマを青ざめさせるほどなんだからな。俺、この人とやっていけるかな。ブルマより強いこの人と…
今だ相対しているブルマとランチさんを、俺は思わず見比べた。その時、視界の隅からのんびりとした声がした。
「おやおや、みなさんお揃いで。ヤムチャさん、お待ちしておりました」
ウミガメが、ランチさんの足元から弱々しい笑顔を覗かせていた。一つだけ心配事が解消されて、俺は胸を撫で下ろした。…よかった。俺、ハブられていなかった。
「やあウミガメ、世話になるよ。武天老師様とクリリンは?」
部屋に一歩を踏み入れながらそう訊くと、ウミガメは独特のカメ口調で俺に答えた。
「クリリンさんは修行の最中です。武天老師様は…」
「きゃああああっ!!」
だが、その言葉はブルマの声に遮られた。いきなり飛んできた甲高い悲鳴に耳をやられつつブルマの方を返り見ると、まさしく俺の尋ね人がそこにいた。
「あ、武天老師様…」
俺が言葉を続けるより早く、ブルマが老師様に食ってかかった。
「何すんのよ、このエロじじい!!」
言うなり、拳を握り固めて武天老師様を殴りつけた。老師様の頭にみるみる大きなたんこぶができた。…一体、何があったんだ。今ひとつ状況についていけない俺をよそに、老師様とブルマの会話は続いた。
「ご挨拶じゃのう。会うたばかりだというのに…」
「それはこっちの台詞よ!!」
飄々として老師様は言い、戻した拳で尻を隠すようにしながらブルマがそれに答えた。おぼろげに事の次第を理解し始めた俺の腕を、老師様が引っ張った。
「つれないのう。老人を邪険にすると、おぬしのボーイフレンドを苛めるぞよ。こやつは今からわしの弟子なのじゃからな」
「なっ…」
俺の弟子入りを改めて認める老師様の言葉に、だが俺は喜びはしなかった。…まさか老師様。最初からそのつもりで…?
五度愕然とした俺の耳に、ブルマの怒声が飛び込んだ。
「勝手にすれば!!」
思い切り眉を上げてそう言うと、ブルマは固い腕組みをしながら、リビング中央のソファへと座り込んだ。努めて心を落ち着かせようとしていた俺の耳に、老師様が囁いた。
「おぬしら、うまくいっていないのと違うか?」
「え…」
老師様の言葉に、重苦しいところはなかった。八つ当たりにも似た悪い冗談というやつだ。そうわかってはいたが、俺は切り返せなかった。
だって、俺も少しだけそう思い始めていたところなのだから。それを助長するような冗談はやめてください、老師様…
「なあに、こいつらはいつもこんなもんだよ」
「ウーロン!」
無造作に言い放ったウーロンの言葉を、プーアルが咎めた。ほとんど同時に、リビングの奥から大きなくしゃみの音が聞こえた。
「あら、みなさんいらっしゃってたんですね。いけない、私ったらお茶もお出ししないで。すぐ用意いたしますわ」
先ほど俺たちに金の無心をしていた女性が、打って変わって柔らかな態度でキッチンへと消えていった。
「どれ、わしも手伝おうかの」
「じゃあおれも…」
ある共通する意図を見え隠れさせながら、老師様とウーロンが後を追った。その変わり身の早さに唖然としながらも、俺は思った。
賑やかだなあ、ここ。C.Cと同じくらい――いや、C.Cから出張してくる人間がいるぶん、さらに賑やかだ。まあ、その人間ともしばらくはお別れなわけだが。
…本当に『しばらく』なんだろうな?

少しだけ距離を置いて、俺はリビングのソファのブルマの横に腰掛けた。…ブルマが何とも言えない表情で、俺を見ていたからだ。
反対側の隣にはプーアル。正面に武天老師様とウーロン。出されたコーヒーに俺が手をつけずにいると、ランチさんがにこやかな笑顔で言った。
「そろそろお茶の時間ですから、クリリンさんも戻ってきますわ」
彼女の言葉はすぐに実証された。カップの湯気が消える間もなく、玄関のドアが開いた。
「武天老師様、50セット終わりました。…あっ、ヤムチャさん。みなさんも来てたんすね」
微かに汗を掻きながら、クリリンが入ってきた。その姿に俺は一瞬目を瞠り、返す言葉を忘れた。ブルマが俺に先んじた。
「なーにあんた、その格好?」
クリリンの背中には、巨大な甲羅が乗っていた。ほとんど身の丈ほどもある、武天老師様の物とはやや色の違った、まるで亀の…
「亀の甲羅じゃよ。60kgのな。ヤムチャ、おぬしにも背負ってもらうぞ。最初は20kgからじゃが」
「60kg!?」
さりげない口調で言いながら俺を見る老師様に、俺は思わず叫び返した。再びクリリンに目をやると、クリリンもまたさりげない動作でそれを脱いだ。その瞬間、僅かに身長が伸びたように見えた。
「ひょっとして、それで『亀仙人』なわけ?何か他に逸話があったりとかは…」
「しないぞよ。それだけじゃ」
ブルマと武天老師様の声が、俺の呆然を打ち破った。ドア横に立てかけられた甲羅へ俺が近寄ると、テーブルへと向けていた足をとめて、クリリンが俺を見た。
「ちょっと背負ってみてもいいかな、クリリン?」
「どうぞ、ヤムチャさん」
クリリンの好意に甘えて、俺は甲羅を背に乗せた。だがよかったのはそこまでで、後は一歩も動くことができなかった。足は歩こうとするのだが、甲羅の方がそれについてきてくれなかった。
「おまえ、よくこんなもの背負って歩けるなあ…」
「ヤムチャさんもすぐに背負えるようになりますよ。要は慣れです。おれも悟空も最初はそうだったんですから」
「うーん…」
俺は自分の甘さを悟った。弟子入りを許可されて喜んでいる場合じゃないな、これは。
焦燥を感じながら甲羅を脱ぎかけた時、ふいに声が飛んできた。
「あんた、全っ然似合わないわね、それ」
顔を上げると、ブルマがコーヒーを啜る手を止めて、おもしろそうな顔つきでこちらを見ていた。
「なんか、無理矢理被り物させられてる新入社員みたい」
まったく無遠慮に、ブルマは続けた。今日一番の呆然を、俺はこの時感じた。これこそ俺が、ここに来る前最も避けたいと思っていたことだ。
「まあ、そのうち見慣れるわよ。だからそれまでがんばってね」
いかにも付け足しのように、ブルマは言った。その言葉に、俺の心は複雑を極めた。
『そのうち』見慣れる…それはつまり、完全に離れるつもりはないということだ。これで『しばらく』が再確認できたというわけだ。しかし見慣れたからといって、『似合う』ようになるわけではない。なんとも微妙な表現だ。それに第一…
痛みの残る肩を手で解しながら、俺は溜息をついた。
…慣れられるのかな、俺。

コーヒーのお代わりが振舞われ出した頃、より具体的な話が始まった。
「ふむ、おぬしはハイスクールへは行っていたんじゃな。それでは勉強の時間はなしじゃ。クリリンもそれは卒業しておることじゃし」
「勉強?勉強を修行中にしてたんですか?」
武天老師様の言葉に、俺は思わず口を差し挟んでしまった。途端に、老師様の表情が険しくなった。
「ヤムチャ。おぬしは武道を何と心得る?」
「…は。それは強くあるために…」
床に手をつき頭を低くして答えかけた俺の言葉は、老師様の静かな、しかし厳しい声に遮られた。
「違うな。武道とは、人を制圧する技術に、その技を磨く修行を通じて人格の完成をめざす、そういった道の面を加えたものじゃ。強くあるのは素晴らしいことじゃが、それだけではいかんのじゃ。バランスよく自らを磨かねばならん」
武天老師様の言葉は、俺の心に神妙に響いた。一転して軽やかに付け加えられた次の言葉も、それを壊さなかった。
「まあ、単純に考えても、アホより頭のいい者の方が戦い強いというものじゃよ」
「それは確かに…」
俺が頷くと、俺の心を軽減させるように、老師様はのんびりと笑った。
やっぱり武天老師様は素晴らしいお方だ。自らの言う通り、人格がすっかり磨かれていらっしゃる。さすが仙人と呼ばれるだけのことはある…
だが、この俺の感慨は、数瞬の後に崩された。
「ねえ、あたしたちそろそろ帰るわ」
ソファの端に深く沈み込んでいたブルマが、さして気もなさそうに呟いた。その途端、老師様が腰を上げて、思い切り気を発散させた。
「なに、もう帰るとな?まだ陽は高いぞ。ゆっくりしていったらええ。ここは暑いでな、汗も掻いたじゃろう。シャワーでも浴びてさっぱりして…何だったら、泊まっていっても構わんぞよ。寝具の用意はできておらなんだが、よかったらわしの部屋で一緒に寝…」
「寝るか!!」
叫びながら、ブルマが拳を振り上げた。老師様の頭に2つ目の大きなたんこぶができた。
「あんた、あんまりこのじいさんに触発されないでよ。本当に頼むわよ!」
「ああ…いや、えーと…」
続けて発せられたブルマの怒声に、俺は完全に言い澱んだ。…俺はすでに触発されてここに来たのだ。いや、ブルマの言わんとしていることは、よくわかるのだが…
すぐ目の前に老師様。後ろにはブルマ。一体、どちらの肩を持てばいいのやら。
…『板ばさみ』というやつだな、これは。

「あー、疲れた。じゃあ、本当に帰るわ。陽が落ちる前にうちに着きたいから。ウーロン、プーアル、行くわよ」
きっぱりとした口調でブルマが言うと、残る2人はそれぞれの表情でそれに答えた。
「あいよ」
「それじゃ、がんばってくださいね、ヤムチャ様!」
ウーロンは、それまで観ていた老師様のビデオコレクションを少しだけ名残惜しそうに見つめながら。プーアルは朗らかな笑顔と共に。
ウーロンは何も感じていないに違いない。プーアルは、昨夜は少し淋しそうに見えたが、今はそうでもないようだ。いつでもカメハウスを訪ねてこいと俺が言ったからだ。…ブルマには内緒だが。
俺が量りきれない唯一の人物は、きびきびとした動作でソファから立ち上がり、颯爽とも言える手つきでドアを開けた。
「本当に帰るんっすか?ブルマさん」
「私の部屋でよかったら、お泊りになりませんか?お布団はご用意できますし」
クリリンとランチさんが、武天老師様と同じことを、しかしまったく違うニュアンスで言った。2人の言葉は純粋な好意からだった――この言い方は武天老師様に失礼かな。でも、本当のことだしな…
「ありがとう。でも…」
ドアから一歩を出ながら、ブルマが言葉を濁した。すぐに俺は思い当たった。
ブルマは俺との約束を実行してくれているに違いない。…まあ、もともとさして未練はなさそうだが。
そう思っていたのだが、ブルマが振り向いた次の瞬間、俺の心が揺らぎ出した。
逆光のせいだろうか。或いはただの気のせいかもしれない。でも…
「せっかく、わざわざ都から来られたんですから。ごゆっくりなさって、明日お帰りになられては?」
さらにウミガメがそう言って、俺は一瞬考え直した。
取り消すべきかな。せめて今日くらいは反古にするべきだろうか。でもなあ――
俺の脳裏に、つい数十分前の光景が甦った。
――あの甲羅。20kgから始めるという亀の甲羅。あれを背負って満足に動けるかな。ただでさえ『似合わない』って言われたのに…
数瞬伏せていた顔を上げて、ブルマを見た。すでに兆候は消えていた。一瞬深さを増したように思えた瞳の色は、いつものきれいな青色に戻っていた。いや、初めから気のせいだったに違いない。そうだよな。ブルマがそんなことを思うわけ…
「そうそう。一緒に住んでいたボーイフレンドと3年間も離れるんじゃからな。さぞ淋しかろうて」
平静になりかけていた俺の心は、武天老師様のこの言葉に、完全に冷静に戻された。
これほど白々しく聞こえる台詞もあるまい。言っている内容自体はこの上なく情に満ちているが、…さっきの今だぞ。老師様もたいがいしつこいよな。
とはいえ、老師様の言葉は、俺の心を戒めもした。
ブルマがどう感じているのかはわからない。でも客観的に見れば、どうしたって俺が勝手をしているわけで…申し訳なく思うべき立場なんだよな。ブルマがさっぱりと対応してくれていることは、とてもラッキーなことなんだ。
「やっぱり帰るわ。またね。バイバイ」
みんなの声にも流されず、やはりブルマはさっぱりと踵を返した。浅く会釈をしてプーアルがそれに続いた。ウーロンがドアを潜りがてら、白い目をして呟いた。
「冷たい女だよな、あいつ」
俺は軽く目を瞠った。なるほど、そういう解釈もありか。っていうか、さっきまで俺もそう思ってたけど。でも、やっぱり楽だから…
カメハウスより数十mの距離にあるエアクラフトへと向かうブルマの後姿を、俺はドアの外で見送った。ブルマの歩は緩くはなかった。そうだな。ブルマにはそういう態度は似合わない…俺がそう思った時、ふとブルマが足を止めて振り向いた。
「べーだ!」
言いながら赤目を剥くと、わざとらしく舌を出した。ブルマがそうした理由が、俺には直感的にわかった。…やっぱり、ちょっとは不満だったか。
思わず頭を掻いた俺の後ろで、今日から俺の家族となる人たちの声がした。
「なんじゃおぬしら、ケンカしとるのか?」
「え…いや…」
「いいんですか?このまま帰してしまって」
「いやぁ…」
「修行は明日からなんですわよね。今夜は一緒にお過ごしになってはいかがですか?」
「……」
次から次へと飛んでくる、温かくも対応に困る言葉の数々。
まったく、ブルマのやつ…最後まで困らせてくれたな。
しょうがないな。この上はせめて、少しでも早く慣れるとするか…
拍手する
inserted by FC2 system