竜変の女
俺の生活は、2つある。
1つのことをしか自ずと考えなくなる時間と、時に退屈を感じることもある日々。
腹を満たす為だけに食う連日と、会話と共に食する毎日。
『どこほっつき歩いてんのよ』となじられる期間と、『どこほっつき歩いてたのよ』となじられる瞬間…

外で修行している時間も、C.Cでトレーニングをして過ごす日々も、俺はどちらも同じように好きだ。
力のつき具合でいけば、断然外での修行の方が上だ(だからこそ外へ行くのだ)。でも、うちにはうちの良さがあると思っている(だから結局帰ってくる)。この2つの一番の違いは、力のつき具合ではなく気分転換の方法だ。
外で修行している時は、はっきり言って気分転換など必要ない。ただひたすら武道に打ち込んでいればそれでいい。多少疲れが溜まっても、一晩眠ればそれだけでリフレッシュできる。
だがC.Cにいる時は、そう単純ではない。まず『気分転換』の定義が違う。一人で生活しているわけではないのだから、ある意味常に気分転換する必要があると言える。飯を食う時とか。一日を終えた時とか。
…そうだな。『一日を終える』、その感覚が絶対的に違うんだ。外にいる時は一日の終わりは即ち次の一日の始まりだ。目を瞑り眠って目を開ければ新たな一日となる。C.Cにいる時は、明らかに一日が『終わった』という感覚がある。
シンプルな一日と、変化に富む一日。
繰り返されることの心地良さと、時に訪れる肌心地の良さ。
特殊な生活と、当然の生活。


その日、俺は退屈だった。
退屈と言うより、つまらなかった。つまらないと言うよりは、物足りなかった。だからそういう気持ちを埋めるべく、いつものように外庭でトレーニングをしていた。それなりに武道に打ち込み、それなりにいろいろと考えていた。すると陽の落ちた頃になって、俺の思考の中にいた人物が、声をかけてきた。
「ね〜、ヤムチャ。映画観に行こ、映画〜」
俺から数m離れた芝生の上に、だるそうに腰を下ろしてから。だるそうに両足を前に投げ出し、だるそうな体を後ろについた手で支えながら。この上なく気の入っていない声を。
「映画?今から?もうすぐ夜だぞ」
なんの気なしに、俺は答えた。やる気なさそうに、ブルマがそれに答えた。
「オールナイトのやつ〜」
「オール……ちなみに、ジャンルは…?」
「恋愛映画〜」
だは…
それ俺、絶対に居眠りする自信ある。そして、怒られる自信もある。さらにはケンカになる自信まである。それならうちで恋愛してた方がよっぽどいいと思うんだが。
「今日一日すっごく退屈だったんだから。あんた、あたしのこと放っておきっぱなしだったんだから、夜くらい付き合いなさいよ」
その理屈でいくと、俺は毎日ブルマに付き合わなければならないことになるんだが。ブルマに付き合ってる日とそうじゃない日の、2つしかないんだぞ俺には。
すぐさま思ったそれらのことを、俺は当然口には出さなかった。そんなことをすれば、毎日付き合わされる羽目になる。ごめんだとまでは思わないが、普通に考えて困るだろ?
「明日にしないか?昼間にゆっくり…」
「いや!あたしは今、退屈なの!」
もうすぐ夜なんだから、適当に時間を潰して寝ちまえばいいじゃないか。
新たに思ったそのことを、俺はやはり口には出さなかった。そういう話ではないとわかっていたからだ。
ブルマの言う『退屈』ってのは、物理的な退屈じゃないんだよな。思考回路の停滞。バイオリズムの低下だ。行き詰ってるというよりは、やることがなくなったんだろう(行き詰っている時は、こんなにおとなしくない)。そういう時は自然に任せて休んでいれば、勝手にモチベーションが上がってくるものだと思うんだが。あるいは運動するとかな。
俺は別に、ブルマに体を鍛えろと言いたいわけではない。ストレッチでもやってみれば、などというつもりもない。ブルマはおひさまの下での運動にはまったく興味のない人間だ。…まあ、そういうことだ。
「うーん…」
俺はすっかり考え込んだ。ブルマの誘いを断ること。ブルマを誘うこと。俺にとっては最大とも言える難関が、2つ同時にやってきた。一挙両得と言えないこともないが、それは突破できた暁でのことだ。そしてどちらの難関も、俺には突破できた例がない。
「まあ、とりあえずお茶でも飲みながらゆっくり話…」
「そんなの飲み飽きちゃったわよ」
「じゃあ、もうじき夕食の時間だから、その後で決め…」
「ダメ!今決めるの!」
うーむ。
突破するどころか、入口に近づけさせてももらえない。これはとりあえず付き合うしかないかな。それならせめて『オールナイト』という部分と、特に『恋愛映画』という要素をどうにかしないとな。途中で切り上げるのはまだ許してくれるかもしれないが、居眠りするのは絶対に許してくれないだろうからな。
一体、どうやって話を持っていくべきか。俺の思考は消去法へと流れていった。時間が時間だからな、自ずと選択肢は限られる。飯を食いに行くか、酒を飲みに行くか。今から飯を食いに行くのは不自然だな。でも、酒を飲みに行ってもなあ。ブルマって、外で酒飲んでも全然雰囲気出さないんだから。俺とよりもバーテンダーとばかり話をしやがる。妬く気にもなれないほどあっけらかんとな。
そんな感じで、俺はまったく言葉が出ずにいた。すると珍しいことに、ブリーフ博士がやってきた。さて、俺とブルマどちらへの頼みごとだろう。そう思った途端に、父娘の会話が始まった。
「おお、いたいた。ブルマ、ちょっといいかね?頼みたいことがあるんだよ」
「いいけど、手短にしてよ。あたしは今、ヤムチャと今夜の予定を立ててるんだから」
「その今夜なんだがね。ちょいとパーティに顔を出してくれんかな」
「えぇー?何よ父さん、またダブルブッキングしたの?しっかりしてよ、もう。だから秘書つけろって言ってんのに」
「何人もつけたんだがね。どうしてか、みんなすぐに辞めてしまうんじゃよなあ」
「それは父さんがネコの世話とかさせるからでしょ!いい加減、会社にネコ連れてくのやめなさいよ!」
「そうは言っても、社長室にいると退屈でなあ。みんなは一体どうやってヒマを潰しているんじゃろうねえ」
「知らないわよ、そんなこと!」
俺はひたすら無言で、父娘のやり取りを聞いていた。呆気に取られたというより、口を挟む箇所がなかった。それになんとなく、先の展開が読めてもいた。
「しょうがないわね。一時間だけよ。そのくらいでいいのよね?」
そしてやっぱり、その読みは当たった。ブルマって、案外面倒見いいからな。娘が父に対してそうするというのもおかしな話だが、この場合はその表現が一番しっくりくる。きっとブリーフ博士があまり父親らしく見えないからだろう。これは悪口ではない。この父娘は、それはそれでうまくやっているみたいだから。本人に向かって言う以上の父親への愚痴を、ブルマは零したことがない。たぶん一番気が緩んでいるだろう、一日が終わった後のあの時間にも。
「それで充分じゃよ。ほい、ポケットピストルと短縮のみの業務用超小型携帯電話。もし何か文句を言われたら電話しておくれ。1番はわし、2番は家だからね」
「どうして家の番号が入ってるのよ!家にいるなら自分で行ってよ!」
「念の為じゃよ、念の為」
「それに、ポケットピストルなんてどうするのよ?」
だから、ある意味では落ち着いた気分で、言い合う父娘を見ていた。…次の瞬間までは。
「これはな、ドレスの胸元から取り出すんじゃよ。ちらりと肌を覗かせながらな。あくまでちらりとじゃぞ。ギリギリ見えそうで見えないのがたまらな…」
「一体何の話をしてるのよ!!」
ブルマが博士に食ってかかってくれたことを、俺は感謝した。慌てて頭を振ってから。…いきなりなんてことを言うんだ、ブリーフ博士は。うっかり想像してしまったじゃないか。
「やれやれ、おっかないのう。一体反抗期はいつになったら終わるんじゃろうなあ。これじゃあヤムチャくんも大変じゃろう」
「行くのやめるわよ!!」
さらにいきなり自分に話が振られたので、俺はすっかり固まってしまった。非常に困ってしまう瞬間が、本当に唐突にやってくるんだよなあ、この2人の会話には。天才の思考って突飛だよな。この父娘の会話を聞いていると、俺って凡人だなあとつくづく思うよ。
「まあいいわ。痴漢除けに貰っておくわ。パーティっていつ行ってもオヤジの巣窟なんだから」
最後におそらく本音を覗かせて、ブルマは会話を締めくくった。きっとそうじゃなかったら、喜々として行くんだろうな。別に俺は妬いているわけではない。ただ少し、呆れてしまうだけだ。
俺がこれまで目にした中で最小と思われるポケットピストルと、名刺のような携帯電話を手渡して、博士は去って行った。ブルマはそれをワンピースのポケットに押し込むと、さっきまでとは比較にならない軽い声音でこう言った。
「あんたも行く?」
「…行った方がいいのか?」
よくわからない心境になりながら、俺は訊いてみた。行きたくないというわけじゃない。でも行きたいというほどでもない。ブルマに任せようと思うほど気楽でもない。展開についていけていないというのが、近いところかもな。
「いいわよ別に、無理して付き合ってくれなくても」
でもブルマがそう言った時、俺の心境は変化した。…少しだけ、惜しいような気持ちになった。だから、次にブルマが口を開いた時、俺は自然とその言葉を受け入れた。
「そのかわり終わったら食事付き合って。たぶん小腹埋めてる暇ないし、それにせっかくドレスアップするんだから」
若干は驚きながら。でも自然と。
「ちゃんとシャワー浴びてね。それからこないだ買ったブルーのジャケット、あれ着てきて」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「はいはい」
当然のように言い放つブルマに、俺は時々半ば無意識に取ってしまう態度を、やはり無意識に返していた。そう、無意識なんだ。ことさら無造作を装っているわけじゃない。そうする理由は、俺にはない。
だって、別に照れているわけではないのだから。言いなりになることを恥ずかしいとも思わない。今さらポーズを取ろうとは、思わない。
ただ、なんとなく。なんとなく、こういうやり取りが楽しいんだ。


鮮やかで深い夜の色のロングドレス。腕を包むシフォンのストール。それらを身につけて最後に口紅を引いているブルマを、俺はベッドの端に腰かけて少し遠目に見ていた。
『パーティはオヤジの巣窟』…疑っていたわけではないが、本当らしいな。ロングドレス自体は珍しくないとしても、スリットが入っていない。足も腕もすっかり隠しているわりに、なぜか胸元だけ露出しているが。でもきっとそれは、ブルマのモットーというかなんというか、そういうものなんだろう。ブルマはいつも、胸か足か、とにかくどこか一ヶ所は露出してるんだから。黒一色の中に浮かぶ赤い口紅と菫色の髪のせいで本人そのものが際立ってしまっているような気はするが、それはブルマのせいではない。
だから、そこまでは俺は納得していた。だがブルマが携帯電話だけをパーティバッグに突っ込んで、その後にし始めたことを見て、それはそっくり呆れに変わった。
「それ、本当に仕込むのか」
先ほどうっかり想像してしまった光景が、今は巻き戻しの映像として、俺の目の前にあった。黒いドレスの下にある白い谷間に挟まれる、黒色の銃器。俺しかいないブルマの自室だから、その点はまだいいとしてもだ。しかし本当にそれをやるとは…
「だって、見えるところに持ってなきゃ、相手をビビらせられないじゃない」
淡々と、ブルマは言った。俺はというと、淡々と考え込んだ。
うーむ…
胸があるからこそできる技だな、これは。こいつ、地味にだんだん胸大きくなってきてるからなあ。反抗気だけじゃなく成長期も終わっていないらしいな。…それとも、俺の効果かな。
責任を感じたというわけではない。だが、俺の心境はまたもや変化した。
やっぱり、俺も行った方がいいだろうか…
ブルマはそういうことを、自分で防げるやつだと思っていたが(武天老師様とのやり取りなんかを見ていてそう思った)。さすがにそこまでするとなるとなあ。俺はまたてっきり、お守りのような感覚でバッグに忍ばせていくものだとばかり思っていたのだが。一体、どういうパーティなんだ。
心配というよりは、疑惑に満ちた心境に、俺はなっていた。すると、ブルマがそれに文句をつけた。
「ちょっと、何よその顔」
「ん?いや…俺、やっぱり――」
「今さらデートのキャンセルはなしよ」
ブルマは当然のように言い切った。わざとらしく眉を顰めて、思いきり口を尖らせて。ずいぶんと不貞腐れたような顔つきで。だが次の瞬間には、すぐにそのポーズを解いてみせた。
「じゃあね。遅くても、一時間半後には電話するから。ちゃんと用意しといてよ。オーシャンブルーのジャケットだからね!」
少しだけ居丈高に、でも軽やかに言い放つと、駆け足で部屋を出て行った。それで俺は一人笑って、その言葉と態度を受け入れた。
本当にそんなに嫌なパーティなら、ブルマは俺について来いと言うだろう。ブルマは俺に遠慮なんか、絶対にしない。
だから、俺は俺の準備をしなくちゃな。


本来のC.Cの人間の誰もいないテーブルでプーアルとウーロンが夕食を摂っている様を、俺はなんの気なしに傍で見ていた。ブルマに言われたようにシャワーを浴びて、ブルマに言われた通りの服を着て。
ママさんは、何かのレセプションに出席するというブリーフ博士についていって、いなかった。終わったら遊びに行くと言っていた。何だか俺とブルマの状況と似たようなことになっている。…血かな。そうかもな。
ブルマはパーティに行ったこと、その後一緒に食事すること、その2点を俺が告げると、プーアルはコーヒーを淹れてくれた。ウーロンはというと、こんなことを言い出した。
「おまえも行けばよかったじゃねえか。そしたらおれたちだって連れてってもらえたのによ」
「そういうパーティじゃないみたいだぞ」
「きっとパーティ会場にはかわいこちゃんがいっぱい…」
「いないって言ってたぞ」
俺がことごとくウーロンの夢を壊してやると、ウーロンは至極つまらなさそうな顔をして、ふいに話題を変えた。
「しかしおまえも、わっかんねえやつだよな〜」
正確には変えようとしていた。もうこの台詞だけで、俺にはそれがわかった。
…また、その話か。
後に続くだろう言葉は、すっかり読めてしまっている。『ブルマなんかのどこがいいんだ?』――もう何度も、と言うに留まらず、月に一度は言われている台詞だ。最も、今月はこれで二度目だが。
俺はさして構えずに、予想が現実になるのを待った。だがウーロンの口から出てきた台詞は、俺の予想とは違っていた。月に一度の慣例は、あくまでそのままだった。
「空を飛べるようになっちまうなんてよ。なんちゅーかもう、人間そのものを疑うな」
「なんだ?今さら…」
俺は軽く首を捻った。舞空術を会得したのなんて、もうだいぶん前の話だ。別に誰にも隠していたわけでもない。
「べっつに〜。ただ思っただけだよ」
またもやつまらなさそうな顔をして、ウーロンはそう言った。そしてやっぱりつまらなさそうに、フォークをステーキにつき立てた。どうやらウーロンもヒマらしい。それともパーティに行けなかったから、不貞腐れているのだろうか。
そうは思ったが、俺は言及しなかった。わざわざ混ぜっ返すほどの話題でもない。だから素直に、新たに提示された話題に乗っかった。
「飛べるのは俺だけじゃないだろう。悟空や他のみんなだって…」
「悟空は初めからおかしなやつだったよ。その点おまえは…」
俺とプーアルは、思わず顔を見合わせた。プーアルはいざ知らず、俺は少しばかり面目ないような気持ちになっていた。昔のことを思い出すと、なんとなくそんな気持ちになる。それにしてもこれは…やれやれ、というべきか、はてさて、というべきか。一体ウーロンのやつは何が言いたい――
「いや、おまえもおかしかったか。何せブルマなんかと付き合い始めたんだからな」
だは…
やっぱり、二度目だったか。
俺は完全に姿勢を崩した。ウーロンはそんな俺を気にもせず、淡々と言い放った。
「おまえ、あんな浮気っぽい女のどこがいいんだ。ちょっと顔のいい男と見りゃすぐ色目使うような女のよ」
だから、俺も言ってやった。淡々と、ただ事実だけを。
「ブルマは色目は使わないよ」
まあ、女よりも男の方に興味があるようなのは確かだけどな。それは本人も隠そうとしていない。だけど不自然なほど強引に男に寄っていったりしたことはないし、ましてや色目を使ったことなんかは絶対にない(俺の知ってる範囲では、だが)。そもそもブルマはそう簡単には人に動かされない。俺と会った時だって、あくまでドラゴンボールに固執していたくらいだからな。そんなこと、ウーロンだってわかってるだろうに。
「おまえは騙されてるんだよ」
「そんなことないって」
「ま、いいけどな。誰と付き合おうがおまえの自由だし。でもおれは頼まれたって、あいつだけはお断りだ」
はー、やれやれ。
耳にタコができるほどではないが、ある程度は聞き慣れたこの台詞。もう言い返す気にもなれん。『あたしだってあんたなんかお断りよ!』ブルマだったら絶対にそう返すんだろうが、俺にはそんな気力はない。相思相嫌なんだから、別に問題ないしな。
軽く一息ついてから、少し冷めかけたコーヒーに口をつけた。するとまたウーロンが俺に話を振ってきた。
「なあ、ヤムチャ。おまえってよ〜」
そこまでを聞いた時点で、俺の心の中はほとんど三択になっていた。
1.『ブルマとちゃんと付き合えてんのか?』
2.『ケンカばっかりしてて嫌にならねえのか?』
3.『修行って言いながら他の女と遊んだりしてるんじゃねえのか?』
…の、失礼極まりない三択に。だからウーロンがまたもや予想を外した時、俺は大いに驚いた。
「いつからブルマと寝てるんだ?」
のみならず、思いっきりコーヒーを噴き出してしまった。それでもどうにかこうにか訊き返した。
「な、な、な、…なぜそれを…」
「あ、やっぱりなー。ほれみろ、プーアル。おれの勘は正しかったぜ」
ガーーーーーン。
…ハメられた…
二重のショックに、俺は襲われた。そこへさらに、ウーロンが傷を重ねる言葉を投げてきた。
「結構最近だろ?な?な?」
だいぶん前だよ…
ある意味、一番傷つく言葉だよな。なぜと訊かれても困るが、ものすごく失礼な気がするぞ。
俺はすっかり憮然とした。そしてそれを隠さなかった。それにも関わらず、ウーロンは揚々として言い放った。
「ま、なんにせよよかったんじゃねえの。じゃあその祝いを兼ねて、いっちょここらでパーッとパーティに繰り出そうぜ」
「いや、だからそういうパーティじゃないんだって…」
俺の憮然はすでに呆れに変わりつつあった。…話題、変わってなかったんだな。
はー、やれやれ。
俺は再び息を吐いて、どうにか自分を立て直した。ウーロンの思惑が、今ではすっかり、そしてようやく読めていた。
こいつはヒマなんだよ、要するに。…あー、ジャケット汚れなくてよかった。
俺はもうコーヒーを飲むことを諦めた。よもやこんなことで汚されてブルマの不興を買ってはたまらん。そう思ってキッチンへと赴いたちょうどその時、リビングの電話が鳴った。…ひょっとして、ブルマからかな。まだ一時間経ってないけど。そう考えたのは、フリーザーからミネラルウォーターを取り出した後だった。
「はい、もしもしC.Cです。…………わっ!」
直後、プーアルが声を上げた。受話器を半ば取り落としながら。
「何だ。どうした?」
「ヤムチャ様、それが…ブルマさんからなんですが、なんか後ろで銃声が…」
「銃声?」
なんだなんだ。本当に使ったのか?物騒なパーティだなあ。…やっぱり俺も行くべきだったか。そうすればウーロンに遊ばれずにも済んだのにな。
不安げなプーアルの手から受話器を受け取ると、ウーロンがそれとは正反対の目つきで俺を見た。俺はとりあえずそれには構わず、ブルマと、おそらく一緒にいるだろう知らない人間の安否を訊ねた。
「ブルマ、大丈夫か?まさか弾が当たったんじゃないだろうな?」
そんな後始末、俺にはできんぞ。撃ってきた相手をどうにかすることはできても、撃ってしまった相手をどうにかすることは。そういうのは医者とか弁護士とかの仕事――いや、それとも仙豆を寄こせとか…言いそうだよな、こいつ。
「わかってんなら早く来てよ!」
「何?」
「あっ!」
一瞬当たったかと思われた予想が外れたことに気づくのに、時間はかからなかった。そこでブルマの声は途切れた。ただ銃声が聞こえた。とうていあのポケットピストルのものとは思えない、大きな銃声が。直後に、耳をつんざく甲高い悲鳴――
「きゃあぁぁぁーーーーー!!」
「おいブルマ!どうした!一体何をやってるんだ!?」
ブルマからの返事はなかった。そのことが事実の一端を示していた。代わりに受話器から漏れてくる、何かが激しく電話に当たる音が、さらに示していた。
少なからず俺の心は動揺した。だが、やがて聞こえてきたブルマの言葉を耳にした時、それすらもできなくなった。
「殺されそうなの!!父さんのせいで!警察に電話して!場所はウェストエリアのビル、ストリート裏の…」
再び銃声が聞こえた。ほとんど硬直していた俺の耳に、次なる言葉は入ってこなかった。
「ブルマ!ブルマ!!ウェストエリアだな!?待ってろ!すぐ行くからな!」
とにかく叫んだ俺の耳にも、やっぱり言葉は入ってこなかった。
ただ、銃声が聞こえた。そして通信が完全に途絶えた。


「プーアル、警察に電話だ。ウェストエリアの裏ビルでブルマが狙撃されている!」
掴んだ事実はそれだけだった。…いや、まだある。
ここへ電話してきたということは、ブルマはブリーフ博士には連絡できていない。当然、警察にもだ。そればかりかおそらく誰にも、居場所を知らせることができていない。そしてきっと、今、電話を手放した。最悪だ。
「何だよそれ!?何だってブルマがそんなことになってんだよ。だいたい、ビルってどこのビルだ?」
「知るか!とにかく俺は行くからな。どうにかしてブリーフ博士にも連絡しろ」
「行くったってよ、一体どこに行くつもりだよ。ウェストエリアの広さ知らねえのか?端から端まで20kmだぞ。ビルなんていくつあると思ってんだ。そんなの神様でもなきゃ、見つけられっこないだろ」
ウーロンが次から次へと痛いところをついてきた。それでもそれを言わないでいてくれたことに、俺は深く感謝した。
「行けば何とかなる。いや、何とかする!」
途中で切れた電話。2度と開かれない回線。それが、もっと最悪な事実を意味しているかもしれないことに、今では気づいていたからだ。…ブルマの声が途絶えた直後に聞こえた銃声。あれは…
何とかできる状況であってほしい。撃った人間をやっつけることはできても、撃たれてしまった人間をどうにかすることは、俺にはできないのだ。
「ヤムチャ様、今、銀星7型のカプセルを――」
「いらん!そんなものより、飛んだ方が早い!」
ウーロンとプーアルの声をことごとく否定して、俺はジャケットを脱ぎ捨てた。汚れることを嫌ったからではない。ブルマの不興を買いたくないからではない。そんなものいくらでも買ってやる。ケンカになったって構わない。
俺はただただ一つのことを思いながら、C.Cを後にした。
俺も行けばよかった。そればかりを考えながら。


空を覆う闇。眼下に広がる街の灯り。眠らない都会の人々。行き交う車の走行音――
『ウェストエリアの広さ知らねえのか?ビルなんていくつあると思ってんだ』そうウーロンは言った。俺はその言葉を突っぱねた。だがウーロンの言い漏らした事実を突っぱねることはできなかった。
エリアの広さなど問題ではない。ビルの数も問題ではない。
問題は、この喧噪だ。
大通りを外れてなお聞こえてくる、街の騒音。どこへ行ってもなくならない、人の気配。何度も銃声と聞き紛った、酔っぱらいや不良共の立てる爆竹の音。花火の音。
すべての音が、この都会には揃ってしまっている。何もかもが、事実を隠してしまっている。最も知りたい事実だけを、隠してしまっている。
疎らに人の見えるビル街を、一見人の見えないビル街を、俺はひたすらに飛んだ。それは、どこもかしこも同じに見えた。暗い、黒い夜の闇。規則的な窓の列。明かりの射さない箱部屋。だから俺は、途中から見ることをやめた。
知っていたからだ。『見るのではなく、感じる』という、そのことを。言葉で、実戦で、俺はそれを教えられてきた。そして自分はそれができていると思っていた。
でも、違った。
ダメなんだ。わからないんだ。感じ取れないんだ。
ブルマの気が、全然感じ取れないんだ。
一番よく知っているはずの人間の気が。いつもいつも当たり前に感じていた人間の存在が。ずっと一緒にいたのに。ずっと近くにいたのに。今もきっとどこかにいるのに。…いてほしいと願っているのに。
そして狙撃者の気も、やっぱり感じ取れない。今、この都には自分より強い者は誰もいない。そのことが、これほど虚しく感じられるとは――
情けないことに今では俺は、一番最初に捨てた可能性にすがりついていた。…絶対に俺の方が早い。C.Cを飛び出した時にはそう考えていた警察に。これまでさんざんそのひ弱さに呆れ果てていた、都の人間の野次馬根性に。
せめてパーティ会場の場所を聞いておけばよかった。俺は完全に凡人の気持ちになりながら、しらみ潰しに空を飛んだ。
いつか一緒に飛んだ空を、ただ一人で。


俺は夜目は利かない。目はいい方だとは思うが、常人以上のものではない。
だから、それはまったく偶然だった。いや、ほとんど奇跡と言ってもいいだろう。
ウェストエリアの端の端。センターエリアとの境界線上にある、薄暗いビル街の片隅。あるビルの壁に今にも飛び去っていきそうに引っ掛かってはためいている、一枚の布――
――ストール!
夜の闇の中で、黒いそれが見えたこと。その奇跡に感謝している暇は、俺にはなかった。すかさず手にして地上に降りると、次なる軌跡が目に入った。
路上に散らばる、数発のひしゃげた弾丸――
間違いない。このあたりだ。少なくとも、ここは通った。こんな都心の路上で発砲するなど常識では考えられないことだが、今はそれすらも一つの証拠だ。
そう思った途端に、聞こえてきた。遠くに聞こえる街の喧噪とはまったく別種の、異常な音が。異常過ぎる数の銃声が。通常であれば眉を顰めるはずの音。だがそれは今の俺には、神の福音に思えた。
ブルマはあそこにいる。まだ生きている…!
瞬時にストールを投げ捨てた。すでに半分飛びかけていた、その時だった。
「おまえ、何しようとしてんだよ」
どこからか声が聞こえた。共犯者か?俺はすぐさま身を構え、そして次の瞬間それを解いた。横手のビルとビルの間から、まさにのこのこといった感じで、男が一人出てきた。どう見ても一般人だ。そんなものに構っている精神的余裕は今の俺にはない。だが次に発された男の言葉が、俺にその感覚を捨てさせた。
「そっち、行かない方がいいぞ」
「何言ってんだ。あの銃声が聞こえないのか!?」
「聞こえてるから言ってやってんだよ。ほっとけよ。きっとサツもそのうち来るからさあ」
「そのうち!?」
「周りのやつらビビっちまって出てこねえもんだからよ。オレが通報してやったんだぜ。すぐには無理って言われたけどな。なんかどっかのお偉方のパーティに、パトがみんな行ってるんだとよ。尾を振りやがってまあ。だから使えねえってんだ、サツってやつは」
「それでおまえはここでずっと黙って見てたのか!!」
「ったりめえだろ。オレはな、ヤバい雰囲気はわかるんだよ。野生の勘ってぇの?」
「きさま…!」
『一般人は相手にしない』。一応は持っていたそのポリシーを、気づくと俺は捨て去っていた。腹に一撃を入れてから、気を失ったその男を路上のうんと目立つ所に放り出した。こういう力もないくせにイキがってるやつを見ると、無性に腹が立つ。
「ブルマーーーーーッ!」
瞬時に空へと駆けながら、俺は叫んだ。声を出せば犯人に悟られるかもしれない。そんなことは考えなかった。そんなことを言っている場合ではない。真っ当な人間が相手ならそれもありだが、この銃声は異常だ。今は一刻の猶予も許されない。それがおそらくはここと思われるビルに近づいた時にわかった。
ビル中に銃声が響き渡っている。反射音との区別がつかないほどだ。そう、区別がつかない。銃声の出所がまったくわからない。はっきり言ってしまえば、俺にはブルマと、そして犯人の居所がわからなかったのだ。事ここに至っても。
最後の最後にきて、俺はひどく凡人染みたことを思っていた。
呼んでくれたら。ブルマが俺を呼んでさえくれたら…!
どこもかしこも同じに見える真っ暗なビルの窓。それを見ながら、再び叫んだ。
「ブルマーーーーーッ!!」
頼むから呼んでくれ!
その直後だった。ビルの窓ガラスが内側から割れたのは。
そう、内側から。そして耳に入った銃声は、明らかにこれまでのものとは違っていた。もう迷う理由はなかった。
飛びこんだビル内に、唯一無二のものが見えた。夜の闇の中で、ひたすらに探していたその色。菫色の髪――
ブルマと弾丸との間に入り込むことができた時、俺は初めて、自分が武道をやるに至っていたことを神に感謝した。自分が自分を鍛え上げていたことを誇りに思った。『人間そのものを疑う』レベルに到達していたことを嬉しく感じた。
そうでなければ、すでに発射されていた弾丸を掴むことなどできなかったに違いないのだから。荒野にいた頃のままの俺であれば、間違いなく大切な人間を目の前で失っていたに違いないのだから。撃った者をどうにかすることはできても、撃たれた人間をどうにかすることは、俺にはできないのだから。
そして、撃たれた人間をどうにかする必要はなかった。一瞥したところ、ブルマはまるきり無傷だった。それを確認した俺は、ほとんど無意識のうちに、撃った人間をどうにかしていた。気づいた時には殴っていた。完全に本能だ。でも、いいんだ。撃った人間なんてどうだっていいんだ。ブルマを撃った人間なんてどうなったっていいんだ。ブルマが生きていれば。ブルマが撃たれていなければ、それだけでいいんだ。
俺はそう思っていたのだが、撃たれかけていた人間にとっては、そうではないようだった。俺が持っていた弾丸を床にほっぽり出すと、ブルマが暗い部屋の隅に立ちつくしたまま、ぽつりと呟いた。
「…死んだの?」
床にだらしなく転がっている男に改めて注意を向けながら、俺は答えた。
「…いや、気絶しただけだ。肋骨くらいは折れているだろうが…」
「そっか。…………はーーーぁ。疲れた〜〜〜。もうダメかと思ったぁ…」
途端にブルマが床に座り込んだ。ほとんど崩れ落ちるように。俺はできるだけさりげなくその傍へと歩み寄り、努めて平静な声を作った。
「ごめんな。遅くなって」
そうしないと、堪えられそうになかったのだ。
一目でわかった。孤立無援の状態で、ブルマがいかに奮闘していたかということが。C.Cを出て行った時のおとなしやかな雰囲気は微塵もない。体を包む一枚のドレス以外には、何も身につけていない。途中で俺が見つけたストールはもちろんのこと、靴も、アクセサリーも、それどころか髪飾りまで。ドレスの裾は何かに引っかけたように破られて、ほとんど腿が覗いている。まるで野山を駆け回った後のようだ。でもそうではないことは、わかり過ぎるほどにわかっていた。
「そうね。ほんっと遅かった。もうギリギリよ」
返ってきたブルマの言葉は、もはや俺にとっては慣例句とも言えるものだった。時折俺が約束を破りかけた(要するに遅刻だ)時に零される、いつもの言葉。自業自得とは言え、しつこく延々と浴びせられる文句の言葉。それを一度だけ、ゆっくり優しく口にして、ブルマは俺の胸元に手を触れた。収まるところに収まろうとするブルマの体を抱き留めた時、ふと傍に転がっていた金属物が目についた。
ブリーフ博士がパーティ用にとブルマに与えたポケットピストル。先ほど俺を呼んでくれた、飾り物のような小さな銃。複数銃身は4つ…
…4発。たったそれだけで、ブルマは俺が来るまで持ちこたえたのだ。
「あいつは何なんだ?殺し屋か?」
自然、先ほどの異常な銃声が思い起こされた。少しだけ時を置いてそう訊ねると、ブルマが胸元に伏せていた顔を上げた。
「まさか。そんなんじゃないわよ。ただの素人よ。どっかの会社に雇われたどっかの素人」
そして、ごくごく自然な口調で言い切った。まるでそれが当然だと言わんばかりに。『そんなこともわからないの?』そう咎める時にも似た表情で。
「何言ってんだ、素人がここまでするわけないだろう」
「素人じゃなかったら、あたしは今生きてここにいなかったわよ。ものすごい数の銃声、聞こえなかった?」
「…聞こえた」
「ね」
当然どころか平然とも言える態度で、ブルマが笑った。それは、何を誇示することもないさりげない笑顔だった。
強いな、とは思わなかった。そんなこと思えるはずがない。赤く潤んだこの目を見れば。でも、強がっているとも思わない。かわいいな、と単純に感じるのとも違う。うまく言えないけど、なんとなく心の温かくなる雰囲気。
ウーロンはブルマのこういうところを知らないんだ。知らないから、ああいうことを言うんだ。でも俺は、それを教えてやろうとは思わない。
知らなくていいんだ、こういうことは。俺以外の男はな。もし知るやつが現れたら、その時こそ俺は嫉妬するだろう。
だから教えない。俺だけの宝物だ。
ブルマはまた顔を伏せた。いつもとは違う目を閉じて、いつもと同じようにくっついてくるその仕種は、俺をとても優しい気持ちにさせた。だから俺はとても優しい気持ちでブルマを抱いて、それから少し髪を撫でて、最後にキスをしようとした。そしてブルマの顔を覗き込みかけた段になって、ようやく気づいた。
僅かに月明かりの射す薄暗い闇の中。髪の菫色と、唇の赤の他にもう一つ、目につく色があることに。
「…とにかく、早く帰って手当しないとな。警察と博士にも連絡を…」
それで、この場はひとまず我に返ることにした。ブルマは無事だったんだから、そんなことは後でいいのだ。すべてをきれいに片づけた後で。何にも煩わされなくなった後で。だいいち、この足結構痛そうだ。いつもだったら絶対に、うるさく騒いでいるところ――
「いや!」
「……はい?」
いきなり眉と声を曇らせたブルマに、俺は完全に無意識の反応を返した。
「嫌よ。帰らない。後でデートするって言ったでしょ!」
「いや、それは。…言ったけど…」
我ながら間抜けな声と半端な態度。でもすぐに気を持ち直して、当然言うべきそれらのことを口にした。
「それは明日にしよう。まずは足の手当てだ。それからあいつを警察に引き渡して、ブリーフ博士に連絡だ。博士にも関係あるんだろ?それに、プーアルとウーロンが心配…」
「父さんなんかどうだっていいわよ。警察だってごめんだわ。こんなことでニュースになんかなりたくないわよ」
「だけど、その足じゃ歩けない…」
「平気よ。あんた、飛べるじゃない」
「でも……」
俺はすっかり言葉に詰まった。ブルマの言葉を否定すること。さらに俺の言葉に従わせること。俺にとっては屈指の難関とも言えるものが、2つ見事に重なった。一見同じことのように思えるかもしれないが、この2つは別物だ。否定することだけならできる。だが、否定した上で俺に従わせるというのは…
「う〜ん…」
「まずショッピングね。ドレス、ダメになっちゃったから。ヤムチャはタイ締めてね。ギリギリだった埋め合わせよ。そしたらごはん食べに行こ!」
詰まり続けているうちに、ブルマはどんどん話を進めていった。俺は表向き渋面を作って、その言葉を受け入れた。
「しかたがないな。じゃあ、一気に飛んでくぞ。急がないとショップが閉まっちまうし、第一そんななりでは街を歩けん」
断る理由が何もなかったからだ。少なくとも、俺自身には。
一体どこにそんな理由があるというのだろう。ブルマはこんなに真っ赤な目をしているのに。こんなにも身を砕いて自分を守った後だというのに。
だから、結局俺はキスをしてしまった。自分を横に置くのはやめた。それでいいとブルマ自身が言ったんだからな。
ブルマの唇は少しぎこちなかった。ひょっとして驚かせちゃったかな。ゆるやかに湧いた罪悪感は、だがすぐに消えた。その身を抱いて空へ駆けると、ブルマがこんなことを言い出したからだ。
「あんたどうしてジャケット着てこなかったのよ。約束したでしょ。あんたっていっつも口先ばっかりなんだから」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「はいはい」
まあ、怪我と言っても足首だし。少し気を遣ってやれば大丈夫だろう。仙豆があればよかったかもしれないな。警察と博士はプーアルに任せるか。途中どこかでC.Cに電話を入れればいい…
ブルマのほっぽり出した問題にとりあえずの答えをあてがいながら、当然のようにかけられる言葉に、俺はまるっきり惰性で答えた。すでに俺は、心楽しくなってきていた。
案外、元気そうだな。こりゃあ、一日の終わりまでお付き合い願えそうだ。

目の前にはどこまでも続く広い空。眼下に都会の喧噪。一人でやってきて、二人で辿る道。いつもの会話。一緒に過ごす時間。共に終える一日。
俺はこの生活を、愛している。
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